要求されるスキル

要求されるスキル

見たものをそのままそっくりに紙に描写することを「模写(もしゃ)」と呼びますが、ここでは模写のスキルは重視しません。
そうではなく、「何も見ずに人体を描けるようになる」ことを目標とします。理由はいくつかありますが、現在需要が多いと思われるキャラクターの描写においては、ふつう私達はいちいち目標とするキャラクターのポーズをしている人の写真を用意したりしないと思われるからです。

 

キャラクターを描く場合、多くの人は何も見ずに白い紙にササッと下書きを始めます。
絵の初心者にとってはなぜこんなことができるのか不思議に見えるかもしれません。しかしこれらは練習で身につけることができますし、計算で求めることもできます。ここで解説するのはこのようなスキルです。

 

ここでは「何かを見ながらそれを写し取る」ということは目標にはしません。
しかしながら、キャラクターを描くときでも、目標とするキャラクターのポーズと同じポーズの人物の写真をどうにかして用意して、それを写し取るという方法もあるのです。
面倒そうですが、実は現在はそれほど難しくはありません。自分でそのキャラクターと同じポーズをして、スマホなどのカメラ機能で写真を撮り、それを見ながら描けばいいだけです。
現在は高度なペイントソフトもあり、写真を裏に敷いてそれを上からなぞって絵を仕上げることもできます。
このように模写によって絵を書いていく方法を私は「サンプリング法」と呼んでいます。これについてはまた別のところで解説します。

 

(サンプリングというのは「サンプルを取る」という意味で、コンピューター音楽などで現実の楽器の音を録音し、それをパソコン上で再現して作曲するなどの意味で使われます。いずれにしても想像で作るのではなく、現存するものをそのまま取って仕上げるという意味です)

 

また模写のスキル(あるものをそのまま写し取る技術)と、想像や計算で描写するスキルはかなり違うもので、大部分は共通点がありません。
なので今から解説する技術は、模写の技術がなくてもできるのです。

 

多くの人は小学校の美術で、目で見た風景画をそのまま写し取ろうとして、何度も失敗した経験があるでしょう。
長さが狂ってしまい、そのために配置もおかしくなってしまったり、よくあることです。

 

しかし想像や計算で描く方法は、何か見たものをそのまま写し取るのとはやっていることが違います。
模写で重要な能力は、一度目で見たものを紙に投影し、それを忠実に再現すること、いわば視覚的記憶能力に依存します。

 

これに対し、想像、特に計算を用いて描く場合、視覚的記憶よりも物体の構造や、それぞれの関係性などの理解が重視されます。
構造や仕組みを理解することで、視覚的な記憶力に不足があっても補うことができます。

 

また構造や働きを理解することで、最終的には表現の幅が増えます。後半の章で解説しますが、身体機能をよく理解することでその肉体は何をしようとしているのかとか、どんな感情でそのポーズをしているのかとか、高度な表現に必要な知識でもあります。

 

まったく模写スキルがゼロでは上手く描けないのですが、あまり上手く模写ができなくても心配しないでください。