理論で線を描画する

絵の上達方法の一つとして、上手な人の絵をひたすら真似して描くという、いわば大量に模写をこなすという方法がいわれることがあります。
しかしこれはあまり効果的な練習方法ではありません。特に何も考えずにひたすら感性に任せて模写していただけでは、その線や陰影を記憶するのみで、似たような絵しか描くことができません。

 

単純な話で、このやり方では大量に記憶しているにすぎません。大量に模写しただけでは、今までに見たことのないパターンが出てきた場合、何もできなくなるのです。
もちろん卓越した視覚的記憶力の持ち主であれば、今までに見たあらゆる人間のポーズなどから記憶を引き出し、何も見ずに正確に描くことができるかもしれませんが、ふつうの人はそんな記憶力は持っていません。

 

今から解説する人体描写の技術は、計算によって描くことのできるもので、人体をどんな角度からでも描くことができます。
どんな複雑なポーズでも視点からでも描けますが、記憶にしたがってすらすら描く場合に比べると描画スピードが劣る場合が多いです。

 

 

複雑な角度で描く

 

絵を描いてみようというとき、特に初心者の場合ですと、まずは人の顔を正面から見た絵を描くでしょう。慣れてきたら少し顔を横に傾けてもいいかもしれません。
次に体も描いてみるでしょう。おそらく正面で立っている図で、あまり運動のない、単純な角度からの図になるでしょう。感覚的に捕らえやすいからです。

 

画像:単純な立ち絵のラフスケッチ
単純な立ち絵のラフスケッチ

 

こういった角度から見た図は、描きやすいものです。私達は絵を描くとき、無意識に物体の「長さ」や「太さ」を認識しており、これらを絵で描くことで再現しようと試みています。
これが正確に描くことを困難にしています。たとえば顔の縦の長さは、胴体の縦の長さよりもずっと短いです。正面から見た図では、この認識どおりに描くことで正確に描画できます。

 

しかし下のようなポーズ、視点だとどうでしょうか。

 

画像:床にうつ伏せで寝転がって顔を上げて頬杖を付いているラフスケッチ
床にうつ伏せで寝転がって顔を上げて頬杖を付いているラフスケッチ

 

こういった角度は多くの人の場合、非常に描きづらい印象を与えます。
顔と胴体も両方描かなければなりませんが、私達は顔より胴体が長い、ということを知っていながら、そんな知識はまったく役に立ちません。
そもそも胴体のほとんどが顔に隠れているし、この角度だと胴体の縦の長さを知っていても意味がなく、横の太さを把握している必要があります。

 

これだけではありません。もっと描きにくいポーズはたくさんあります。単純な立ちポーズだけ練習していたのでは、こういった複雑な角度が出てくるとまったく太刀打ちできません。

 

だから絵の上手い人は、さまざまな角度からたくさん描いています。その練習量は通常膨大で、年単位でかかるものです。
しかしそんなにたくさん練習するのは非常に骨が折れます。そこで、こういった練習がまったく不要とはいいませんが、練習時間を最小限に抑えるために、つまり最も効率よく練習するために、遠近法などを含めた計算方法があるわけです。

 

これから説明する理論は、計算でかなりの程度、大まかな形を先に作ってしまおうというやり方です。

 

派手な色彩で見た人の注意をひきつける絵はたくさんあります。しかし結局、基礎的なデッサンや計算方法を知っている人は案外少なく、ちょっと複雑なポーズになるとたちまち正確に描けなくなる、ということは珍しくありません。

 

ポーズや視点によって人物画の表現の幅ははるかに広がります。付け焼刃の派手な色彩やエフェクトに走らないでください。それよりもまずは基礎的な部分、「どんな角度からでも正確に描ける」ようになりましょう。

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