美術のための人体計測

まずはプロポーションの「計測」の方法を見ていきましょう。
私が以前からやっていた統計の集め方について、それぞれ説明していきます。

 

 

市販ポーズ集のモデルを計測

絵描きの人たちのために、市販の「人体ポーズ集」のような書籍があります。
これは裸体、あるいはあまり衣服を着用していない状態で、モデルが様々なポーズをとっているものです。
この中にはたいてい、真正面から見た図や真横から見た図も含まれているので、それを定規で測定して各部の長さの割合を出すことができます。

 

これは私が最もよく使っているもので、かなり正確に測定することができます。

 

やり方として、直立ポーズの真正面図と真横図を、それぞれ部分ごとに、あるいは全体を定規で測定していきます。

 

これの欠点として、ポーズ集はたいていモデルそのものが小さく描かれていることが多く、定規では測定しづらいことです。
ポーズ集はもともと、アニメーターや漫画家が絵を描くときの参考にするために作られているものなので、あまりにも詳細な部分までは写されていません。
長さを求めるためには定規で測定するのが一番ですが、モデル自体が小さく写っていると、定規でもミリ以下の単位で間違えても大きく値を違えることがあります。

 

極端な例を出すと、たとえばモデルが全身で1.6センチで写っていたとすると、実際の身長が160センチだとすれば、実物との倍率差は100倍となります。
するとたとえ定規の測定で1ミリ間違えたとしても、実物上では10センチもの長さを測り間違えていることになります。これでは正確な値は求められません。

 

このような欠点を克服するため、スキャナでパソコンに画像を取り込み、専門の画像ソフトの中の長さ測定機能を使って測定していく方法があります。
画像ソフトの中では拡大縮小が可能なので、紙の中で実物大寸法まで拡大して測定すれば、測定した長さはそのまま実物大の長さになります。
拡大して測定すればミリ以下の単位でさえ精密に測れるので、非常に正確に測れます。

 

スキャナで画像を取り入れるとき、紙の厚さでスキャナ内でゆがまないように気を付けましょう。
取り込む紙面がスキャナのガラス面にすべてぴったりくっついていないといけません。

 

またポーズ集のモデルは、完全に真正面、真横から写ったものがない場合があります。
真正面から写しているようでも、実はわずかにカメラが下方から写されているために、顔の部分が遠近によってゆがんでいたりしることもあります。
できるだけ遠近の歪みのないポーズを選びましょう。

 

とはいっても、正面図ではほぼ正面から写されているので、定規で計測してみればほぼ正確な値が取れます。
誤差はわずかなので、人体寸法データベースと比較するにはいい対象です。

 

こういったポーズ集に載せられている写真は、多くは平均的な体型、身長の人をモデルにしています。
平均的な値がほしい場合、これらのポーズ集はよく役に立ちます。

 

 

身体計測のデータベース

人体の統計はネットで公開されている部分もあります。「人体」「統計」「身体計測」「データベース」「寸法」などで検索すると出てきます。

 

身体計測といっても、1年に1回健康診断にあわせてやるようなものではなく、美術のための身体計測というものがあります。
これは絵を描く人や3DCGをやる人のために作られたものなので、あまり無駄がありません。
あるいは美術専用でなくても、学術的な目的で計測されたようなデータは、美術をやるのにも役に立つことが多いです。

 

このような計測データは非常に役に立ちますが、場合によっては自分の知りたい部分のデータがないこともあります。
人体寸法のデータベースといっても、体のあらゆる部分を計測しているわけではないのです。たとえばふつう、そういうデータベースでは、指の長さを1本1本、長さと太さとも計測してはいません。

 

描画のために意味のないデータもあります。たとえば「手首1周分の長さ」などのデータがあることがありますが、周囲の長さがわかっても描画の役には立たないので注意しましょう。
描画のための寸法とは、「見た目の長さ」のことであり、体を正面あるいは側面から見た寸法です。

 

 

写真集などで計測

グラビア写真集などは人物が大きく写っているので、これを定規で測って身体各部の長さを測定することもできます。
要は人物がある程度大きく写っている写真なら何でもいいわけです。

 

しかしこれも簡単にはいかず、まず写真集では真正面や真横から写っているものが数少なく、計測がしづらい点があります。
真正面に見えても、ほんの少し横にずれていたりします。

 

もともと写真の撮影の技術では、真正面や真横から写すのはあまり面白くない構図とされていますし、やるならほんの少し角度をつけたりしてきれいに見せたりします。
なので誰かの写真集を使うのはあまりおすすめできません。

 

ただ写真集というのは、しばしば顔や体が非常に大きく写っているため、細かい大きさや肌の質感、肉付きなどを知るためには便利です。

 

 

自分で自分の体を計測

長い定規を使って自分自身を測定してみれば、人体各部の長さを測ることができます。
定規は30センチ以上のものを一つ用意しておくといいでしょう。50センチの定規も、ホームセンターなどで売られています。

 

問題点としてまず思いつくのは、自分自身が平均的な体型でない場合、平均値を求めることができないという点です。
例えば自分自身が相当の肥満だった場合、腹部や胸部の横幅を測定しても、平均値より大きくずれた値が出てしまうかもしれません。

 

しかし実は、人間というのは「骨の長さ」に関しては、多くの人が自身のと比較した場合、極端にずれることはほとんどありません。
たとえば「自分の身長が160センチであれば、下腕の骨の長さは○○」というふうに、骨の長さに関しては、身長が同じであれば誰でもほぼ同じ長さ、形状なのです。
個人差はありますが、それでも筋肉や脂肪の量に比べるとずっと少ないです。

 

なので、たとえ肥満でも首の長さや腕、足の長さなどは、平均の人とほとんど変わらない場合が多いです。
(ただし肩幅のように、胸骨と肩の筋肉を含めた長さを計測すると、当然肩の筋肉の量によって大きく個人差が出ます。個人差が出ないのはあくまで骨の長さだけなので、このような場合は肩幅を測るのではなく、わきの下の肋骨の右端から左端までの長さを測るなどしたほうが、より平均に近い値が出せるでしょう)

 

自分で計測する場合、定規の当て方にもよって誤差が出たりしますので注意しましょう。
頭部の縦の長さを測ったところ、異常に大きくなったりすることがありますが、定規の測定位置がおかしかったりすることが多いです。
特に頭部では定規の当たり方が自分の目で見ることができないので、こういう場合は鏡を見ながら測定しましょう。

 

自分の体を測定するというのは、最も手軽で、ある意味確実な方法です。
目的のデータサンプルがどうしても探しきれない場合、こういう方法が使えます。
たとえば指の長さを1本1本測るのは、写真を見ながらやるのは苦労します。自分の指をサンプルに取れば、簡単に測れます。