具体的な計測方法

写真を用意する

まずは計測のものととなる直立ポーズの写真を用意します。今回は美術用のポーズ写真集を使うこととします。これは専門書が売られている大きめの書店や、amazonなどで手に入れることができます。
今回は体の比率を測定していくので、体全体が映っているポーズ集でないといけません。

 

このようなポーズ集は、たいてい真正面と真横から直立するポーズが大きく載っているのですが、まれにそういうのがない場合があります。
さまざまな複雑なポーズを前提にしている写真集では直立ポーズがない場合がありますので、それは避けてください。書店であれば、少し中身を見て確認したほうがいいでしょう。

 

直立のポーズは出来るだけ大きく写っているものが望ましいです。あまり小さいと、定規を当てたり画像ソフトで測ったときに誤差が大きく出ます。

 

最低限必要な写真は、直立ポーズの真正面と真横の写真です。

 

画像:真正面と真横図。
真正面と真横図。
真正面と真横図。

 

さらにあったほうがいいものとして、同じ視点から見たもので多くの関節を回転させた図があります。たとえば真正面から見た図で、腕を真横へ回していたり、脚を真横へ回していたりする写真などです。真横から見た図なら、背骨を曲げていたり、脚を曲げていたりする写真があるとなおいいです。
これら関節を曲げた写真は、関節点の正確な位置の測定のために使うものです。

 

画像:真横から見た輪郭図。背骨と脚を曲げているもの
真横から見た輪郭図。背骨と脚を曲げているもの
著作権の都合で、市販のポーズ集をそのままここに載せることはできません。この図は市販のモデル集を見ながら、私が人物の輪郭線だけ上からトレースしたものです。

 

ここで注意することですが、関節を曲げた写真のほうでは、その曲がった方向がカメラと平行の方向である必要があります。平行というとわかりにくいですが、関節を曲げたときに、カメラに向かって近づいていたり遠ざかっていない方向に曲がっているものです。「遠近がない」というとわかりやすいでしょうか。
今からやりたいことは、画像を見ながら人間の関節の長さを測ることです。たとえば手前方向へ向かって手が伸ばされていたりすると、遠近がついているため、それを定規で測っても手の本来の長さにはならず、本来の長さよりも少し短い長さになるでしょう。

 

後で詳しく述べますが、関節点の位置を測定するためには、すでにわかっているある関節点から別の関節点へ定規を当てます。そして別の画像で同様に定規を当てて、長さが同じになるところを関節点とします。たとえば直立ポーズでひざの関節点から脚の付け根の長さを測り、脚を曲げたポーズでもひざから脚の付け根へ定規を当て、この長さが同じになるところが正確な関節点になります。

 

言葉で説明してもわかりにくいので、とりあえず「直立ポーズを2枚(真正面と真横)。さらにできれば真正面と真横の、関節がいろいろ回転している画像を2枚。関節を曲げたほうの写真は曲がったときに遠近の拡大縮小のないもの」を選んでください。

 

 

パースペクティブのない写真を

先ほども述べましたが、使用する写真は、できるだけパースペクティブの少ない写真を選んでください。パースペクティブとは遠近のゆがみのことです。

 

何かといいますと、これは後の章でまた説明しますが、物体を近距離で見るか遠距離で見るかによって、視点中央からずれた物体はより大きく角度が付いて見える現象のことです。
言葉でいってもわかりにくいので、画像で見てみましょう。以下はパースペクティブの大きいBOXの画像です。

 

画像:パースペクティブの大きい画像。ふつうのカメラで撮ったBOX
パースペクティブの大きい画像。ふつうのカメラで撮ったBOX
カメラの位置は対象の頭部付近の高さにあるため、BOXの足の辺りになると、真横から見た図になっておらず、ずいぶん斜め上から見た図になっています。BOX自体が斜め上から見た形になっているので、これでは真正面、真横から見た長さが正確に測れません。

 

次にパースペクティブのない画像です。

 

画像:パースペクティブのない画像。平行カメラで撮ったBOX
パースペクティブのない画像。平行カメラで撮ったBOX
これは特殊なカメラで撮ったもので、まったく遠近がついておらず、体のすべての部分が真横から見た形になっています。すべてのBOXが真横から見た形(直方体)です。
実際のカメラではこういうことはありえないのですが、それでもできるだけこういった遠近のゆがみのない直立画像を選んでください。

 

 

スキャナで取り込む

今回はパソコンに画像データを取り込んで測定する例を挙げます。もちろんそんなことしなくても、定規だけで測定する方法もありますが、精度としてはパソコンに取り込んだほうが高いので、可能ならそうしてください。
またパソコン画像の中で長さを測定するので、画像編集ソフトが必要です。フリーのものでも何でもいいのですが、長さを測定する定規の機能がないソフトだと意味がありません。ソフトがない場合や使い方がわからない場合は、紙面に直接定規を当てて測定する方法を取ります。

 

パソコンに画像を取り込むにはスキャナという機械を使います。イメージスキャナとも呼ばれ、多くはパソコンのUSB端子を使ってデータのやり取りを行います。
直立のポーズをスキャナで画像として取り込むとき、スキャナのガラスの面に本のページがぴったりすべてくっついているようにしてください。紙がガラス面にすべて密着していないと、取り込み画像にずれやゆがみができて、正確な測定ができなくなってしまいます。

 

パソコンに画像を取り込んだら、画面の中でひっくり返っていることも多いので、画像を回転してちゃんと直立させます。
この回転は厳密に行ってください。斜めに向いていると、測定の精度が落ちます。可能であれば、水平、あるいは鉛直の線を引き、本当にまっすぐに立っているかどうかを検査してください。

 

画像:水平線と鉛直線で直立の正確さを測定
水平線と鉛直線で直立の正確さを測定
説明で使用する画像ですが、権利的な関係で写真は載せません。写真のかわりに私が描いた人間の輪郭線(人物の写真の輪郭をトレースしたもの)を使って説明します。

 

 

 

拡大あるいは縮小する

パソコンに画像を取り込んだら、扱いやすい数字になるように画像を拡大または縮小します。この過程は必ずしもやらなくてもかまいません。
たとえば取り込んだ画像が日本人の成人女性のものである場合に、定規機能で頭のてっぺんから脚の裏までの長さを測ったとします。この値が仮に78ピクセルだとか102ミリメートルだとか、そういう値だと比率や長さを計算するのが面倒です。

 

こういう場合、成人女性の平均身長は160センチメートル程度なので、見た目でおよそ平均的な女性の身長だと思ったら、この画像を拡大して身長が160ミリとか160ピクセルとかにしておくと、後で値を読むときにそのままセンチメートルに置き換えて読むことができ、長さを把握しやすくなります。

 

また今回は直立の画像のうち、真正面図と真横の図の2種類取り込むので、2つとも大きさが同じになるようにしたほうがいいでしょう。

 

 

関節点の位置を出す

BOXの位置を正確に出したいわけですが、BOXの境目は関節点なので、まずは関節点の位置が正確にわからなければ、BOXの大きさを特定することはできません。なので最初に関節点の位置を出していきます。

 

関節点は「だいたいここだろう」と見当をつけて出すだけでもいいのですが、より正確に測る方法もあります。
特に脚の付け根や腕の付け根など、実質的な関節点(関節回転の中心点)がどこなのかわかりにくい部位もあります。

 

側面図で試してみましょう。特にわかりにくい、脚の付け根の関節点の位置を測定してみます。

 

まず人物が直立している側面図と、人物が関節を曲げたポーズをしている側面図と、2枚用意します。
画像ソフトのレイヤー機能などを使い、図のように透明度を調整し、2枚の図が重なるように配置します。

 

画像:前面レイヤーを半透明にしたもの。側面図2枚、直立姿勢と関節を曲げたポーズ
前面レイヤーを半透明にしたもの。側面図2枚、直立姿勢と関節を曲げたポーズ
この2枚の画像を比較して定規で測定するわけですが、できるだけ比較できるような配置にします。
この図であれば、腰部全体、お尻の位置や大きさがほぼ一致するように画像の位置を調整します。

 

画像:レイヤーの配置を調整、腰部が一致するように
レイヤーの配置を調整、腰部が一致するように
これでひざの中心位置から腰へ向かって定規を伸ばします。定規をまっすぐ伸ばしたとき、2枚の画像の定規の交点が関節点となります。

 

画像:前方後方レイヤーの定規の交点
前方後方レイヤーの定規の交点
関節点の把握に、別にこの方法を必ず使わなければならない、というわけではありません。
重要なことは、関節を回転させても骨の長さは変わらないということです。ひざの中心点から腰の「ここが関節点かな?」と検討を付けた部分へ線を引いてみて、長さを測定します。どんなに脚の付け根を回転させてもその長さが変わらなければ、その関節点の位置は正しいということです。

 

画像:脚の付け根の関節点を中心に脚を回すとどれだけ回転させてもひざまでの長さは変わらない。イラスト。
脚の付け根の関節点を中心に脚を回すとどれだけ回転させてもひざまでの長さは変わらない。イラスト。
もし脚の付け根を回すれにつれてその長さが変わっていくようであれば、そこは本当の関節点の位置とはずれているということです。

 

画像:ずれた関節点のイラスト
ずれた関節点のイラスト
ほとんどの関節点は、単純に骨の関節の真ん中にあるだけです。ひじでも指でも、曲がったところの真ん中を関節点にすればほぼ間違いありません。
しかしところどころ、どこが中心なのかわかりにくいところがあります。たとえば首の付け根、肩の周辺、脚の付け根です。特に胴体にくっついている部分には、関節点がわかりにくいところが集中しています。
これらもこのように、写真を使って測定していけば、正確な関節点の位置を出すことができます。

 

なおここでいう「関節点」というのは、必ずしも骨の関節の位置を示してはいません。
骨の関節の位置と「実際の回転の中心」は、わずかにずれていることもあります。絵を描くときに重要なのは、骨の位置ではなくて「回転の中心位置」です。
もちろん骨の位置とも関係しているので、骨格構造や骨の形を覚えておいて損なことはありません。

 

 

用紙の上で関節点を出す場合

パソコンの画像ソフトを使わずに、写真の上に定規を当てて関節点の位置を測定する場合も、やり方の基本的な部分は同じです。
脚の付け根の関節点の位置の予想をつけ、ひざの中心からそこまでの長さを、直立のポーズと脚を曲げた場合のポーズで測定してみます。2つの値がほぼ同じであれば、関節点として正しい位置を示していることになります。

 

BOX位置を出していく

関節点の位置が出せたら、次はそれらを境目として、各部をBOXに分けていきます。
BOXは大きさや分割数の設定などは特に決まっておらず、自分が絵を描くときにやりやすいように分けていくのがいいでしょう。結局これの目的は、自分が絵を描きやすいようにするためなので。

 

注意点としては、とにかく関節点の位置を間違えないこと、関節を回したときにBOXがそれに応じて正確な動きをするように設定することです。

 

 

BOXを分割して輪郭線を描く

BOXは一つの箱のまま描いてもいいのですが、各辺を何分割かして、そこにどの部分が来るかを覚えておくと、後で輪郭線を描画するときに楽になります。

 

画像:胸部BOXを分割
胸部BOXを分割、正面図と斜め上から見た図
胸部BOXを分割
縦、横、高さに何分割かしておきましょう。そして元の画像を参考に、輪郭線を描いていきます。
それらの輪郭線が、BOXの中のどの部分を通るかを記録し、描画するときの参考にします。
BOXを分割しておき、輪郭線が分割点のどれくらいの割合の場所を通るかを記録しておくと、描くときにも応用しやすいです。

 

体のある点の位置は、正面から見ただけでは奥行きまではわかりませんが、側面図と照らし合わせることで奥行きにどれだけあるのかまでわかるようになります。
このような斜め上から見た複雑な視点で描くときには、縦横だけでなく奥行きがどれくらいあるかも知っておかないと、正確な輪郭を描くことはできません。
BOXをいくつかに分割しておくと、さらに正確に描くための手助けとなります。

 

さて、このような計測をやっても、正面図と側面図しか描けず、少し斜め方向を向いたりすると正確に描けなくなるじゃないか、と思われるかもしれません。
しかしその心配はいりません。正面図と側面図が描ければ、そこから斜め方向の図を描き出すことも、それほど難しくはないのです。その描きかたは後の章で説明します。