プロポーションの創作

計測が終わったら、次はそれを使って自分で人体を描画する段階です。
もちろん取ったデータをそのまま使えば、取り込んだ間の形がそのまま出来上がります。

 

しかし各人それぞれが求める画風というものがあるので、必ずしも自分にとってそのデータが最適な値かどうかはわかりません。
例えば自分の求めている人体の形状が10頭身くらいの長身だったとすれば、平均値な値は参考にはならないでしょう。

 

統計データでもポーズ集でも、多くは平均的な人体か、少しプロポーションがいい人がモデルになっています。
平均値はしばしば、20歳前後の成人男女のものが用いられています。平均値をそのまま使って人体を描けば、平均的な人体が出来上がります。

 

ものすごく長身だったり美形だったり、あるいはデフォルメさせたキャラクターの描画が目的であれば、平均値をそのまま使うわけにはいきません。

 

 

プロポーションを変形する

これから自分の画風に合う最適なプロポーションを創作します。創作といっても難しいことではありません。BOXの辺の長さを変えるだけです。
胴体の長さや脚の長さなどを短くしたり長くしたり、あるいは太さを変えたりして、自分の求める最適なプロポーションを探していきます。

 

重要なこととして、各部の長さは変わっても、関節点の割合的な位置は変わりません。
人種や年齢性別に関わらず、すべての人間の関節や骨は、同じ機構、構造を持っていますので、関節点が増減したりすることはまずありません(BOXの各辺の長さが変われば、関節点の割合的な位置も変わるので、関節点の絶対位置が変わることはあります。なので関節点の位置は、モジュール数やセンチメートルではなく、BOXの中でどの割合にあるか、何分の何にあるか、という割合で覚えておいたほうがいいのです)

 

関節点の相対的位置はそのままで、あとはBOXの各辺の長さを変えていきます。

 

 

おかしくならない程度に変形

プロポーションを変形するといっても、やりすぎるとおかしな絵になります。
たとえばいくら美形のキャラクターを作りたいからといって、脚の長さを2倍にすると、非常に不自然な体型になってしまいます。

 

画像:足を長くしすぎておかしな体型になったもの。
足を長くしすぎておかしな体型になったもの。
私の経験では、いきなり比率を創作してもおかしな絵ができるばかりでした。
まずはリアルな人間の比率を計測し、そこから少しずつ変形して作っていくほうが自然なプロポーションを作ることができました。

 

計測なしに、いきなり自然なプロポーションを出せる人もいるかもしれません。そういう方は計測の過程は必要ないでしょう。
しかしとりあえずは、先に計測してからそこから少しずつ長さをずらしていくほうが無難ですので、計測の後に創作する、という前提でお話します。

 

私の経験上では、おかしくならない程度に変形するコツがいくつかありました。

 

 

1.腕の長さは体全体の長さに比例させる

腕の長さは体全体の長さ(胴体+脚+足の長さ)に比例させます。プロポーションをよくしようとして、足を長くして胴体を短くすることがありますが、全体の長さが同じなら腕の長さは変えません。
ただし上腕と下腕の割合は変わりません。上腕と下腕は常に同じ長さにします。どちらかだけ長くなる、ということはしません。不自然になります。

 

こうする理由は、単純に実際の人間でそうなっているからです。
私が観測した結果ですが、西欧人のスーパーモデルは非常にプロポーションがよく、東洋人に比べて胴体が短い上、脚がかなり長いです。
しかし身長が同じであれば、西欧人でも東洋人でも腕の長さは変わりませんでした。なので西欧人のスーパーモデルは、胴体の長さに比べると腕がかなり長く見えますが、腕が長すぎて怪物のように見える、というようなことはありません。胴体の長さにあわせて腕を短くするとなんだか不自然な絵になります。

 

 

2.胴体の長さを脚全体の長さの比率は自由に変更してよい

胴体(胸部・腹部・腰部)と脚全体(上脚・下脚・足)の長さの比率は自由に変更してもいいようです(長さというのは縦の長さ、高さのことです)
あまり極端にするとおかしな絵になりますが、少々いじくっても不自然には見えません。

 

前の章では胸部、腹部、腰部の順に、4、2、3.5モジュールとして描きましたが、これをたとえば3.5、1.5、3.5くらいにすると、かなりプロポーションとしてよくなります。
さらに上脚と下脚は4.5、5.5モジュールとしましたが、これを5.5、6.5くらいにすると、まるで西欧のスーパーモデルのようないいプロポーションになります。

 

このように胴体と脚全体の割合はかなり自由に変更してもいいのですが、注意点として上脚と下脚の比率は変えてはいけません。これは腕と同じで、ここの比率を極端に変えるとおかしな絵になります。

 

また胸部、腹部、腰部の割合ですが、この中で腰部を長めにすると、より西欧人っぽいプロポーションになります。日本人はへそより上の割合が長いです。西欧人はへそが高い位置にあります。
胸部を長くするときは、腹部も同時に長くしたほうが無難でしょう。基本的には、下方を長くすればするほどいいプロポーションになっていきます。

 

 

3.横幅を変更したときは奥行き幅も変更する

胴体の横幅を狭くした場合は、胴体の奥行きの幅も比例させて短くします。
体の太さというのは、横幅だけでなく奥行きの幅も含まれますので、片方だけ細くしたり太くしたりすると、おかしな体型になってしまいます。

 

横幅に関しては、特に日本的なアニメや漫画の少女キャラクターでは、極端に細く描かれる傾向があります。
しかしあまり細く描いてしまうと、詳細に陰影を書き込んだ場合に細すぎて不気味な絵になることもあります。
どれくらい描き込むかなどを事前に決めておき、不自然な絵にならないよう、計算して比率を決めたほうがいいでしょう。

 

 

実際に描いてみて検証

どの比率が正しいか、ではなく、「どんなふうに見えたら自分の画風にとってベストか」が重要なので、その比率が自分にとって本当にベストかどうかは、自分で人体を描いてみるまではわかりません。
なのでとりあえず、よさそうな比率を決めたら、それをもとに正面図と側面図を描いてみて、自分にとって正しいプロポーションになっているか、最適な画風になっているかを検証しましょう。

 

リアルに描く、正確に描くというのは目的の一つになりうるのですが、自分の求める画風はリアルな人体とは程遠い形状かもしれません。
そういう場合、現実の人間の統計データは参考程度にとどめ、正面図や側面図を描いてみて、そこから自分で最適なBOX値(各部の長さ)を出していくのがいいでしょう。

 

 

真正面と真横からだけでいいのか

検証するとき、真正面と真横で見た図を描いてみろといいましたが、実はこれだけでは不十分な場合があります。

 

特にアニメ・漫画的なキャラクターを描いた場合、顔の部分が三次元的に矛盾を抱えているような場合があります。
どういういものかというと、データベースを参考に頭部の長さや目の位置などを出し、正面、側面から見た絵を描いたとします。
それらを元に、斜め上から見た絵を描くと、なぜかおかしく見える、ということがあります。

 

何かといいますと、特にアニメ・漫画的なキャラクターだと、特に顔面は本物の人間とはかけ離れた形をしているものが多く、三次元的にしっかり計算してしまうと、「正面と側面から見た位置は正しく見えるのに、斜めから見るとおかしく見える」というようなことがおこります。
ちょっとわかりにくい説明ですが、実際に斜めから描いてみるとおかしいとわかる場合があります。

 

そのような場合は、正面か側面の位置について、もう少し違う値を使う必要があります。
あるいはこういう問題は特に顔面パーツにのみ集中しがちなので、頭部の輪郭だけ計算で出し、目や口などのパーツは計算せずに描く、という方法もあります。