表面に見える骨

第1章では骨の長さが体の各部の長さに影響すること、また骨同士をつないでいる関節についての説明しましたが、一部の骨は表面に形が出てきているものもあります。

 

表面といっても、骨がむき出しに現れているわけではありません。特殊な事情がなければ、人間の骨はすべて皮膚で覆われています。
皮膚で覆われてはいるのですが、皮膚の上に骨の形がほとんどそのまま、あるいは部分的に表面に出ている部分があります。
この形状を描画するためには、骨そのものの形状を把握しておくと便利です。

 

部分によっては、たとえば肘のように、関節の曲げ方によって表面に出てくる形状が異なっていく部分もあります。このあたりも含め、解説していきます。

 

ただし体のすべての骨の形状をすべて覚える必要はありません。
美術解剖学をやる目的は、表面にどのように見えるかを把握するためです。明らかに表面に出てこないような骨の形状は、覚える必要はありません。

 

そして骨の形をそのまま覚えるのが目的ではなく、目的はあくまで「表面に出てくる形」です。
骨の形状を暗記するのではなく、表面に出てくる形を覚えてください。骨は皮膚に覆われているので、骨の形がまるっきりそのまま表面に出てくるのではなく、少し柔らかい形で現れます。それを覚えましょう。

 

骨の形はポーズによって、表面に出てきたり出てこなかったりします。
骨は通常は肉に覆われているので表面に形が出てきませんが、関節を曲げたときの関節の外側の皮膚は引っ張られて伸び、その分薄くなります。皮膚が薄くなるとその下の形が現れやすくなります。

 

たとえば胴体を前に曲げるとお腹の辺りに肉が集まりますが、背後へのけぞらせると肉が伸び、肋骨下部の骨の形が皮膚の表面に浮かび上がってきます。
自分でやってみるとよくわかります。平均体型の人なら、背中をのけぞらせると、お腹の左右、へその左右辺りに骨のでっぱりが表面に出てくると思います。

 

また胴体を前方へ曲げると、背骨が表面の形に出てきます。のけぞると肉が集まって表面に出てこなくなります。

 

このように、表面に出てくる可能性のある骨は、骨の形を覚えておくと便利です。
一般的には、関節部分では、関節を曲げたときに皮膚が伸びる外側では肉が薄くなるため、その部分で骨の形が露呈しやすいです。
さらに筋肉は機能上、関節と関節の間に付いていることが多いので、関節部分では筋肉が少なくなりがちです。これらの理由で、特に関節部分では骨の形が表面に出やすくなっています。

 

第1章では関節点についてかなりやりましたが、これについてもう一度、復習の意味も込めてやることにします。骨の形状や機構を理解していると、なぜ関節点がそこになるのか理解するのに役に立ちます。

 

 

体型による差

人間の骨はすべて肉によって覆い隠されているので、肉がたくさん付いている人は表面に骨の形が出てきにくい傾向があります。
太っている人は表面に骨の形が現れにくく、痩せている人は形が現れやすいです。

 

また性差もあります。脂肪や筋肉によって骨の形が覆い隠されたりします。
女性は脂肪によって覆い隠されることが多く、男性は筋肉によって覆い隠されがちです。

 

子供は脂肪も筋肉も少なく、老人も同様に少ないですが、筋力が衰えて肉がたるんでいるため、子供とも形が異なってきます。

 

重要なことの一つとして、骨というのは個人差が比較的出にくいということです。

 

身長が同じで、太っている人と痩せている人では、見た目はかなり違うものですが、実は骨の形自体はほとんど変わりません。
太っているというのはたいてい、脂肪が多すぎる体型です。非常に筋肉質な人もいますが、それは筋肉が多く付いているのであり、骨が大きいとか太いとかいうことではありません。

 

 

骨の役割

骨の主な役割は、体を支えることです。支えるというのは形が崩れないようにすることで、骨がないとポーズを維持することができません。

 

骨は非常に頑丈で、どの方向からも支えることができます。いろんな複雑なポーズをしても形が崩れないのは、骨が硬いからです。

 

ただし骨に瞬間的に強い力がかかると危険なので、たとえば高所から着地するときなどは、骨が折れないように脚を曲げたりすることで衝撃を和らげます。このときは筋肉の力も使用します。

 

背骨は蛇腹上になっているため、強い力がかかってもある程度は背骨全体が曲がるため、衝撃を少なくできます。
またお尻など肉の多い部分は、肉厚で衝撃を吸収するために多少強い衝撃がかかっても平気です。