上腕と下腕

腕は本来手のひらや指と一緒に考えるべきものですが、ここではひとまず腕(上腕、下腕)だけ見ていきます。

 

進化の過程で、人間の腕は道具を扱うために発達したため、非常に緻密で複雑な動きが可能です。
そのため関節の構造も特殊な部分があり、特に手の指は体の中でも圧倒的に多数の関節数があり、しかも足の指と異なり、それぞれかなり自由に動かすことができます。

 

この複雑な「手」を操作するための腕は、上腕・下腕ともに、パワーと精密さを維持するため、多数の筋肉が複雑についています。

 

 

骨と関節

上腕は1本の骨が入っているだけでさほど難しくはありませんが、下腕は2本の骨が入っているため、構造が複雑になっています。

 

画像:腕の骨。Poserのもの。
腕の骨。Poserのもの。
関節点は見たとおりの位置です。

 

画像:腕の関節点。
腕の関節点。
まず上腕から見ていきましょう。

 

回転方向ですが、上腕は下方向には回せますが、上方向にはほとんど回りません(腕を下ろすことはできても、上げることはできない)
腕を上げる場合は肩の関節が回るのであって、その回転の中心は鎖骨の真ん中当たりになります。肩のあたりを押さえて、上腕関節を上に回そうとしても上がりません。
逆に腕を下げるときは、肩の関節は回らず、上腕関節だけ回ります。

 

画像:上腕は下げられるが、上げられない。肩は上げられるが、下げられない図。
上腕は下げられるが、上げられない。肩は上げられるが、下げられない図。
上腕関節は、前後にはかなりの角度、回ります。100度以上回ります。より大きく曲げるときは、肩の関節も一緒に動きます。

 

画像:上腕と肩関節の前後回転。小さい回転では上腕だけ回り、大きく回すと肩ごと回る。
上腕と肩関節の前後回転。小さい回転では上腕だけ回り、大きく回すと肩ごと回る。
上腕と肩関節の前後回転。小さい回転では上腕だけ回り、大きく回すと肩ごと回る。
ものを投げたり、大きなパワーが必要で精密さがあまり必要でないときは肩ごと回し、大きな力を得ます。逆にパワーは必要ないけど、精密さが必要なときは、肩までは回らず腕だけ回し、精密さを維持します。
パワーも精密さも必要という場合、その両立は難しいです。個人の技量によります。たとえば優れた野球のピッチャーになるためには、多くの練習を必要とします。

 

下腕は側屈ができません。前屈と回旋はできますが、側屈はできないのです。側屈を試みると回っているように見えますが、実は上腕が回旋することで側屈できているように見えているだけです。

 

画像:下腕は前屈が可能。
下腕は前屈が可能。

 

腕の回旋

腕は回旋が複雑な機構になっています。これは上腕と下腕を一緒に見ていかなければなりません。

 

まず上腕関節は回旋(ひねり)ができますが、この回旋には注意が必要です。肘を曲げた状態で上腕を回旋させると、下腕を回すことができます。
意識的には、下腕を回そうをするとこの動きになります。下腕が側屈しているように見えますが、実際は下腕は側屈はできず、上腕の付け根が回っています。自分でやってみるとわかります。

 

画像:上腕の回旋。下腕が回っているように見える。
上腕の回旋。下腕が回っているように見える。
上腕の回旋。下腕が回っているように見える。
次に、自分で腕をしっかり伸ばした状態で、腕を回旋させてみてください。痛くならない程度に外側、内側に回してみましょう。
最初は下腕だけ回ると思いますが、あるところまで行くと上腕も回るようになります。

 

画像:腕の回旋
腕の回旋
腕の回旋
腕の回旋
正確には、下腕だけで90度回ります。手のひらを正面に向けた状態が元の位置で、ここから内側へ、90度までは下腕だけで回せます。
ためしに自分でやってみてください。腕を下に下ろし、まっすぐに伸ばします。手のひらが正面を向いた状態で、これで「下腕の骨がまったく回旋していない状態」です。

 

画像:下腕の骨の元の状態の骨の図。下腕の2つの骨が回っていない。
下腕の骨の元の状態の骨の図。下腕の2つの骨が回っていない。
下腕は肘部分から2本の骨がこのように手首へ向かって出ており、これが回ることで回旋を可能にしています。90度内側へ回しても、下腕だけ回り、上腕は回っていません。
しかしこれ以上内側へ回すと、上腕まで回ってきます。下腕は90度までしか回らず、これ以上回すと上腕まで回るのです。

 

肘を曲げてももちろん同じ事で、下腕は90度までは内側へ回ります。が、肘を曲げた状態で下腕を90度以上回そうとしてもなかなか回りません。下腕だけの回旋は90度内側までが限界です。

 

画像:肘を曲げて下腕を回旋。限界が90度。
肘を曲げて下腕を回旋。限界が90度。
肘を曲げて下腕を回旋。限界が90度。
そして上腕の回旋によって、下腕はグルグルと回すことができるようになります。これはかなりの角度回すことができ、180度くらい回すことができます。

 

画像:腕を回す。180度くらい回せる図。肉体図。
腕を回す。180度くらい回せる図。肉体図。
腕を回す。180度くらい回せる図。肉体図。
まとめると次のようになります。

 

上腕は上に回らず、下にだけ回る。
上腕は前後に回る。
上腕は回旋が可能。回旋させると肘がぐるぐる回る。

 

下腕は前屈が可能。後屈は不可能。
下腕は回旋が可能。90度程度回すことができる。
下腕は側屈は不可能。

 

さらに手首は前屈後屈が可能ですが、回旋が不可能です。手首の関節は回旋しないので注意しましょう。

 

またこれらのことは、自分の腕で試してみるとすぐにわかりますので、納得できるまで自分の体で試してみましょう。

 

 

表面に出てくる骨

一般的に人間の関節部分では骨の形が表面に露呈しやすくなっています。
腕に関してもそのとおりで、骨の形が出てくるのは肘と手首の部分です。

 

まず手首の部分では、親指側と小指側に骨の膨らんだ部分があります。これは少し気をつける必要があります。

 

画像:手首の骨のふくらみ2箇所。
手首の骨のふくらみ2箇所。
これらは骨によるふくらみで、小指側のほうが大きく膨らんでいます。
画風によっては描画しないこともあります。

 

ところで下腕の骨は2本あり、これらがねじられることで下腕の回旋を可能にしています。

 

画像:下腕の2本の骨がねじられる図。
下腕の2本の骨がねじられる図。
下腕を回旋したとき、肘の部分の骨は回っておらず、しかし手首の部分は回っていることになります。
なので肘の骨は動きませんが、手首の骨だけ回っていることになります。
間違えて肘の骨まで回さないように気をつけてください。

 

次に肘関節の骨を見てみます。
肘だけでなくひざもですが、これらは関節の曲げる角度によって形が変わります。

 

自分の腕で試してみましょう。まずめいいっぱい肘を伸ばし、前に突き出します。手のひらを上にしてみてください。この状態は下腕の2つの骨が少しも回っていない状態です。

 

画像:腕を前に突き出した状態。左右の2つの骨の突起。
腕を前に突き出した状態。左右の2つの骨の突起。
肘の左右部分に骨の突起が見えます。この2つは曲げても位置が変わりません。

 

これを真下から見ると、肘の中央にも大き目の骨が一つ入っており、これによって中央が膨らんでいるのが確認できます。

 

画像:肘の中央の太い骨の突起。自分の腕。
肘の中央の太い骨の突起。自分の腕。
これを確認しつつ、腕を少しずつ曲げていきましょう。すると中央の骨は、2つに分離していくように感じるでしょう。

 

画像:腕を曲げた場合の肘。
腕を曲げた場合の肘。
実際は2つの分離したのではありませんが、見た目はそのように見えます。それでとりあえず、肘には4つの突起があるように見えます。

 

特徴的なのは肘の曲げた内側で、伸ばした状態から少しずつ曲げて、自分の肘で確認してみてください。
肘の中央にある骨が少しずつ表面に出てきて、新たな角を作るのがわかると思います。めいいっぱい曲げると、角が2つでき、この2つの突起の間にラインができます。

 

画像:肘の内側。めいいっぱい曲げた状態。内側の2つの骨を結ぶライン。
肘の内側。めいいっぱい曲げた状態。内側の2つの骨を結ぶライン。
伸ばした状態から60度くらい曲げた状態では、まだ内側の2つの骨を結ぶラインはありません。

 

画像:肘の内側。60度くらい曲げた状態。
肘の内側。60度くらい曲げた状態。
肘の内側はこのような構造になっています。曲げる角度によって角の立ち方が異なりますので注意しましょう。

 

肘の外側はどうなっているかというと、少しずつ曲げていくにつれ、中央の骨と、伸ばしたときに外側にあった骨が一体になっていくように見えます。そしてめいいっぱい曲げると、肘の外側に一つだけ骨の突起ができているように見えます。

 

画像:肘の外側。めいいっぱい曲げた状態。
肘の外側。めいいっぱい曲げた状態。
60度くらい曲げた状態では、肘の外側は柔らかい曲線を作っています。そしてめいいっぱい曲げられるまで、あまりその曲率は変わりません。

 

画像:肘の外側。60度くらい曲げた状態。
肘の外側。60度くらい曲げた状態。
肘の外側はあまり難しくはありませんが、内側は曲げる角度によって角の作られ方が少しずつ変わってきますので、自分の肘をよく観察しながら描くといいでしょう。

 

 

筋肉

腕の筋肉を見ていきます。筋肉は関節を回す機能を持っているのですが、腕は複雑な動きをする分、たくさん筋肉がついています。しっかり覚えないと、おかしな絵になってしまいます。

 

まず上腕の付け根あたりから見ていきましょう。
割といろいろ付いていますので、まずは図で見てみましょう。

 

画像:脇付近の筋肉。
脇付近の筋肉。
脇付近の筋肉。
脇付近の筋肉。
肩の外側に三角筋という大きな筋肉が付いており、これは男女ともよく確認できます。内側に二頭筋という、肘を曲げたときに盛り上がる筋肉があり、この2つの間に胸から来る筋肉(大胸筋)の端が埋まります。大胸筋の端は、人によっては確認できます。

 

画像:三角筋と二頭筋、その間にある大胸筋の端。
三角筋と二頭筋、その間にある大胸筋の端。
脇の下あたりですが、ここは形状を覚えてしまいましょう。先ほどの二頭筋のすぐ下、胴体の部分は全体的にへこんでいます。
そして脇下のやや後方は膨らんでいますが、このふくらみは腕の外側の三頭筋という筋肉まで続いています。

 

画像:脇の下。二頭筋、三頭筋。
脇の下。二頭筋、三頭筋。
上腕の中央辺りですが、手のひら側は大きく膨らんだ二頭筋が大きく占め、肘辺りで終了します。
裏側は三頭筋があり、やはり肘付近で終了します。

 

画像:二頭筋と三頭筋。
二頭筋と三頭筋。
三角筋は上腕のちょうど中央辺りで終了します。

 

画像:三角筋の付近。
三角筋の付近。
次に下腕です。手のひら側は、およそ左右に2つの筋肉があります。ここはいくつかの細かい筋肉が集まっているのですが、およそ次のように2つにわけられます。

 

画像:下腕の手のひら側の2つの筋肉。
下腕の手のひら側の2つの筋肉。
裏側も先ほどの2つの筋肉が左右を占めています。この2つの中間に一つ筋肉が入っています。この中央の筋肉は、手首あたりで広く、肘にかけて狭くなっていきます。
ただ中央の筋肉はあまり大きくないので、実質左右に2つとみなしてもいいでしょう。

 

画像:下腕の裏側の筋肉。
下腕の裏側の筋肉。
つまり下腕の筋肉は、およそ2つに分けられるというわけです。下腕は専門書を見ると大量の筋肉が集まってわかりにくいのですが、大まかに分けるとこれくらいです。自分の腕を見て確認してみてください。筋肉質な人はもっとたくさんの筋肉が確認できるかもしれません。

 

 

実際の形状

筋肉と骨はすでに説明したとおりです。

 

脇の付近は、鎖骨の端以外は骨はほとんど見えません。上で説明したとおりの筋肉がそのまま見えます。
肘の付近は筋肉はほとんどなく、骨だけ見えます。これは肘の関節部分で説明したとおりの形が見えます。

 

画像:肘の付近の形状。
肘の付近の形状。
肘の付近の形状。
下腕から手首の付近までは、中央あたりでは筋肉のみ、手首付近では左右に骨の突起が見え、手のひら側の手首部分では、手首の回転角度によっては中央に「筋」が見えます。

 

画像:下腕から手首まで。中央の筋も見える。
下腕から手首まで。中央の筋も見える。
腕の筋肉を描画するときに気をつけたいこととして、特に下腕をめいいっぱい回旋したとき、筋肉も手首付近でかなりねじれてきます。
このとき、たとえば下腕だけ回旋させた場合、肘付近はまったく回転しておらず、手首付近ではたくさん回っています。筋肉もこの回転に引っ張られる形になります。

 

画像:下腕をめいいっぱい回旋させたときの下腕の筋肉。
下腕をめいいっぱい回旋させたときの下腕の筋肉。
上腕も回旋すると、二頭筋や三頭筋は肘付近へ行くにつれてねじれてきます。上腕はあまり回りませんが、下腕はよく回るので、この筋肉のねじれをしっかり把握していないと、正確に描くことができません。

 

慣れないうちは自分の腕を見ながら描くといいでしょう。力を入れてみたりして、筋肉がどのように見えるか観察してください。

 

 

腕の回旋の問題

先ほど少しお話した、上腕と下腕の回旋の問題について、もう少しみてみます。

 

人間を描き、少し高いところにある右方向の物体に手を伸ばすようなポーズを作るとします。たとえば電車の吊り輪をつかんでいるようなポーズです。
これが初期状態のポーズ(回転のないポーズ)から、どこをどれくらい回転させたものなのかを見てみます。

 

画像:初期状態(関節回転なしの状態)
初期状態(関節回転なしの状態)
画像:右上の物体に手を伸ばすポーズ。
右上の物体に手を伸ばすポーズ。
このときに注意すべきこととして、肘は回旋と前屈はできますが、側屈はできないということです。
上の図でいうと、赤の回転方向へは動きません。

 

一見して、肘の赤回転を上へ90度回し、次に青回転を90度回すと目的のポーズになりそうな気はしますが、実はこれは間違いなのです。

 

画像:赤を90度回転。
赤を90度回転。
画像:さらに青を90度回転。
さらに青を90度回転。
こうではなく、正しくは肘が90度前屈し、さらに上腕が90度回旋しているのです。上腕は回旋もできます。

 

画像:肘を90度前屈。
肘を90度前屈。
画像:上腕を90度回旋。
上腕を90度回旋。
このようなことは、腕に細かく陰影をつけるときには知っておく必要があります。

 

このポーズをとるとき、最初にやったように、最初に肘を側屈させてから回旋させるという誤った回転を想像してしまった場合、筋肉のひねり具合を誤って描写してしまうでしょう。上腕が回旋できておらず、肘がありえない方向に曲がっているため、下腕につく筋肉のひねり具合はおかしなことになります。

 

正しい回転、つまり肘を90度全屈させ、上腕を90度回旋させるという手順をとった場合は、たとえば上腕の二等筋は、回旋によって上を向いています。

 

画像:回転後の二等筋の正しい位置。
回転後の二等筋の正しい位置。
実際に自分でこういうポーズをとってみると、こうなっているのがわかると思います。
筋肉の配置位置を間違えないように、ありえない方向へ回転させないように気をつけましょう。