手と指

手は人間の体の中でも最も間接が多数ある部分で、しかも足とは異なり、かなり複雑で精密な動きが可能です。
そのため描画する機会も多く、体全体から見ると小さい部分なのですが、描画を間違うとおかしな図になってしまいます。
機能的な都合上、拡大して描画することも多いので、油断できません。

 

 

骨と関節

手のひらから指に至るまでの骨の形を見てみましょう。

 

画像:手のひらから指の骨。
手のひらから指の骨。
まず、手首から5本それぞれの指の付け根に向かって、それぞれ骨が出ています。これらは手のひらの中に5本埋まっています。
そして指の付け根から、5本ともそれぞれ3つの関節が出ています。付け根のほうから第1関節、第2関節、最も先端が第3関節となります。

 

親指だけ特殊な動きをするので、まずは親指以外の4本の指について考えていきます。

 

 

親指以外の4本

手のひらに埋まっている5本の骨の関節点は、手首の真ん中あたりです。ここからそれぞれの指の付け根に向かいます。
これらのうち親指を除く4本の骨は、手のひらに埋まっているためまったく動かないように見えますが、実はほんの少しだけ動きます。

 

手のひらを開いて手の甲側へのけぞらせたときと、握りこぶしを握ったときでは、手のひらの形がかなり変わっていることが確認できるでしょう。

 

画像:手のひら。開いてのけぞらせているものと握りこぶしを作ったときの写真。
手のひら。開いてのけぞらせているものと握りこぶしを作ったときの写真。
手のひら。開いてのけぞらせているものと握りこぶしを作ったときの写真。
前後屈(上下)へはけっこう回ります。中指は動きませんが、小指など中指から離れるほどよく動きます。握りこぶしを作ると中指を頂点に、山形の形になります。
わずかな動きですが、特に握りこぶしを作った図の場合、これの動きがまったくないと不自然に見えるので注意しましょう。

 

左右にも実は、わずかだけ動きます(側屈)。めいいっぱい手のひらを広げると、指の付け根が少し広がっているのがわかります。

 

画像:手のひらの写真。閉じたものとめいいっぱい広げたもの。
手のひらの写真。閉じたものとめいいっぱい広げたもの。
手のひらの写真。閉じたものとめいいっぱい広げたもの。
これは非常にわずかなので、無視してもあまり不自然には見えませんが、細かく描こうとする場合はわずかに骨を広げたほうがいいでしょう。ただし広げすぎるともちろんおかしな絵になります。

 

指の付け根の関節点の位置ですが、注意すべきことがあります。手の甲から見たこの位置と、手のひら側から見た位置が、異なるように見えます。
これは自分の指を見てみるとすぐに確認できます。手の甲の指の付け根の、骨の膨らんだところが関節点で、手のひらから見た「指の付け根のシワ」は関節点ではありません。

 

画像:手のひら側から見た指の関節点に近いシワ。
手のひら側から見た指の関節点に近いシワ。
付け根のシワではなく、そのすぐ下の膨らんだ部分が関節点です。鉄棒をやりすぎると血豆ができてしまう場所が関節点です。自分の指を曲げて確認してみてください。

 

また指の付け根の関節点は、中指が最も伸びており、小指はもっと短い位置にあります。完全に4本とも同じ位置に並べてしまうと不自然になってしまいます。

 

中指の長さがわかりやすいので、まずは中指から見ていきます。
親指の第1関節と中指の第1関節の長さがだいたい同じ長さです。そして中指の第1関節の長さは、第2関節と第3関節の長さを足した長さと等しいくらいです。
第1関節の骨は、意外と長いので注意してください。そして指の付け根関節と第1関節までの長さの、半分の位置に手のひらの「水かき(それぞれの指の間の付け根にある皮」があります。

 

そして指の関節点ですが、関節点は指の中の真ん中あたりです。指を曲げてよく見てみると、第2関節と第3関節の骨は同じくらいの長さだったりします。

 

画像:第2関節の長さと第3関節(先端)の長さが同じ、の説明図。
第2関節の長さと第3関節(先端)の長さが同じ、の説明図。
中指以外の指についてですが、人差し指と薬指の先端は中指の第3関節の中央辺りで、小指の先端は薬指の第2関節の位置、くらいに覚えておけばいいでしょう。個人差があるかもしれません。

 

さらに骨の方向についてですが、下腕のまっすぐ延長線上に中指があり、小指は手首関節から30度くらいの方向にあります。

 

画像:下腕の延長線上に中指、それを手首関節を中心に30度の方向に小指関節、の図。
下腕の延長線上に中指、それを手首関節を中心に30度の方向に小指関節、の図。
指の根元関節の回転についてですが、まず回旋はしません。側屈(左右方向)へはいくらか動きます。手のひらを広げてみるとよくわかります。小指あたりになると45度くらい横に曲がります。

 

指は前屈が最もよく曲がります。第1関節と第3関節は最高で90度くらい曲がりますが、第2関節は110度くらい曲がります。
細かいことですが、指を自然に曲げると、第2関節は第1、第3関節よりも少し多めに曲がっているのがわかると思います。

 

指は後屈も曲がります。ただし第2関節は後ろへはのけぞりません。第1関節が最も後ろへのけぞらせることができ、第3関節ものけぞらせることができます。ただし自力でのけぞらせることができるのは第1関節だけです。第3関節は外からの力だけでのけぞります。

 

 

親指
親指はほかの4本とは異なる性質を持っています。
関節の数は、厳密にはほかの4本よりも1つ少ないのですが、「指に3つの関節がある」と思っていても差し支えありません。
この講座では親指の第1関節はこの位置とします。

 

画像:親指の第1関節。手首のすぐ近く。
親指の第1関節。手首のすぐ近く。
親指の第1関節は中指の第1関節の長さとほぼ同じです。そしてこの関節だけは非常に特殊で、回旋以外の4方向に自在に動かせます。
平常時、横から見ると45度くらい傾いていて、自然に前後屈させると親指の先端は小指の第1関節あたりに来ます。

 

画像:横から見た親指。45くらい傾いている。
横から見た親指。45くらい傾いている。
画像:親指を前屈させた手のひら。親指の先端が小指の第1関節点あたりに来ている。
親指を前屈させた手のひら。親指の先端が小指の第1関節点あたりに来ている。
そして側屈も可能で、左右で合計90度くらいは曲がります。

 

画像:親指を側屈。左右の最大角度を提示。
親指を側屈。左右の最大角度を提示。
親指の関節の複雑さはここにありますが、残りの第2、第3関節は前後屈しかできません。側屈や回旋は不可能で、1方向にしか曲がりませんので、このあたりは難しくはありません。
そして第2、第3関節の長さも、第1関節の長さ=第2関節+第3関節で、ほかの指と同じです。
親指はとにかく、筋肉に埋もれている第1関節の動きにさえ注意すれば、間違った絵を避けることができます。問題が出てきたらまず第1関節が正確に描けているかチェックしましょう。

 

 

表面に出てくる骨

手もほかの部分と同じく、関節部分の骨は表面に形として出て来やすい部分です。関節が多いので、骨の形がたくさん表面に出てきます。

 

まず各指の第1関節の部分では、手の甲側から見ると骨の形がとがって表面に現れています。しかし刃物のようにとがっているわけではなく、いくらか柔らかく曲線になっています。

 

画像:第1関節の表面、骨の形が表面に出てきたもの。親指とそれ以外の指。
第1関節の表面、骨の形が表面に出てきたもの。親指とそれ以外の指。
これに対し、各指の第2、第3関節を手の甲から見ると、第1関節よりはとがっていません。

 

画像:各指の第2,3関節。
各指の第2,3関節。
各指の第2,3関節。
なので各指の第1関節から第2関節へ伸びる面は、とがった部分から少しずつ平面的になっていきます。

 

画像:第1関節のとがったところから第2関節の滑らかになっていく図。
第1関節のとがったところから第2関節の滑らかになっていく図。
手のひら側からはほとんど骨の形は確認できず、親指以外の第1関節のところが少々膨らんでいるくらいです。

 

画像:手のひら側、親指以外の4本の付け根が膨らんでいる。
手のひら側、親指以外の4本の付け根が膨らんでいる。

 

筋肉

手と指の筋肉ですが、大きく分けると3つに分けられます。これらはすべて手のひら側から確認できます。

 

画像:手のひらの3つの筋肉。
手のひらの3つの筋肉。
親指の付け根にある筋肉と、小指側にある筋肉が重要ですので、形を覚えてしまいましょう。
もう一つの4本の指の付け根にある筋肉ですが、これは実は筋肉ではなく、単に関節が埋まっているので膨らんでいるだけですが、あたかも筋肉があるかのように膨らんでいるので、このふくらみも覚えておきましょう。

 

これらの筋肉は特に見た目が大きく変化することはなく、関節の動きに従って変形するだけです。

 

各指の、手のひら側にも筋肉があります。指を曲げると、内側に筋肉があるので曲げた内側は筋肉で膨らみます。

 

画像:手のひら側は筋肉がある。
手のひら側は筋肉がある。
一方、手の甲側はあまり筋肉がなく、目だって膨らんだ箇所は見られません。

 

画像:手の甲側。筋肉があまりない。
手の甲側。筋肉があまりない。
筋肉の役割は部分を「縮める」ものであり、つかむ方向(手のひら側)にはたくさん筋肉が付いていますが、広げる方向にはあまりついておらず、手を広げる力は握る力よりも弱くなります。

 

同様の理由で、指の側面にもあまり筋肉が付いていません。指の各関節で、膨らんでいるのは手のひら側で、手の甲側の側面はあまりふくらみがありません。

 

特に手の甲側は肉があまりついていないため、関節の間を結ぶ「筋」もよく見えます。
特に手首から各指の第1関節へ伸びるラインには筋がよく見えます。親指には2本の筋があり、手をめいいっぱい裏側にのけぞらせるとよく確認できます。
またこの「筋」は、親指だけは手首の異なる部分から出ています。

 

 

実際の形状

指は円柱のような形をしています。しかし断面は完全な円形ではなく、第2、第3関節はおよそ六角形のような形をしています。
指の形がおかしくて困ったときは、とりあえず各指の断面を、六角形で描いていき、これらを結んでいくとうまく描けます。

 

画像:指を真上から見た写真。六角形の形。
指を真上から見た写真。六角形の形。
ただし第1関節は手の甲側がとがっています。

 

指と指の間には「水かき」と呼ばれる部分があります。特に親指と人差し指の間の水かきは特徴的なので、形を覚えてしまいましょう。

 

人差し指の付け根と小指の付け根辺りで、手の甲の「外側への傾き」が重要になります。

 

画像:人差し指と小指の付け根下の、外側への下がり具合。写真と説明。
人差し指と小指の付け根下の、外側への下がり具合。写真と説明。
この傾きは親指、小指の中心あたりから始まっています。

 

最後に爪ですが、これは個人差があるようです。

 

画像:爪
爪
私の爪はあまりきれいな形ではありませんが爪がもっと長く、指が細いと長細くなってきれいに見えます。
爪は一般に、長細いほうがきれいと認識されるようです。

 

爪は指の肉の部分よりは金属に近い質感で、光をよりよく反射します。色自体は実は、指のほかの部分とあまり変わりません。

 

 

個人差

あまり目立ちませんが、指は性差が出る場所の一つです。女性のほうが男性より、指が細く、手そのものも小さい傾向にあります。
女性キャラクターなのにあまり太く指を描いてしまうと不自然になってしまいます。

 

年齢や職業によっても差の出やすいところであり、たとえば畑仕事をしている人は、女性でもゴツゴツした形をしています。
筋力よりは、物理的な外部の刺激によって形に差が出てくるようです。