伝統的な心理療法のやり方

伝統的な心理療法のやり方

勉強と直接関係ないように見えるかもしれませんが、現在日本で行われている伝統的な心理療法について少し述べておきましょう。

 

カウンセリングとかサイコセラピーともいわれますが、これらはわかりやすい言葉でいえば「悩み相談」といったところです。
ところで一般に悩み相談というと、どういうイメージでしょうか?

 

 

悩み相談も一種の心理療法である

悩み相談というのは、普通の人どうしでもやることです。
学校や仕事で嫌なことがあって、友達同士で愚痴り合い、すっきりすると次の日にまた元気良く一日が始められます。

 

「愚痴(ぐち)」とは何かというと、仕事などでたまったストレスの感情、たとえば怒りや悔しさ、悲しいことなどを聞いてもらうことです。
そういった負の感情を誰かに話し、聞いてもらうことで、自分自身のストレスが緩和され、元気になれます。
悪い感情を吐き出す、といった感じです。それだけで心が楽になります。

 

実はこれだけでも、一種の心理療法なのです。
悩み事があり、それを話すことですっきりして悩みが解決したのですから、ちゃんとした心理療法に過程になっているわけです。

 

悩みを自分の心の中に抱えたままだと、吐き出すところがありません。

 

もし悩みを聞いてくれる人がいなければ、誰か代わりに聞いてくれる人がいるといいです。
カウンセラーの役割の一つは、愚痴を聞く人になることです。

 

 

愚痴を聞くときの「共感的傾聴」

また愚痴を聞いてもらうときは、聞いてくれる人の態度によって吐き出す人の癒され具合も変わります。
もし愚痴を聞いてくれるはずの人が、高圧的で批判的な人だったらどうでしょうか?

 

「こんな嫌なことがあったよ」といっても、「そりゃお前が悪いよ。もっとがんばれよ」といわれたら、ますます落ち込みます。
これでは心理療法になりません。

 

心理カウンセラーは、こういう「愚痴の聞き方」について徹底的に教育されます。

 

まず臨床心理学科というところで勉強すると、耳が痛くなるほどに「とにかく相談者の話を聴け、聴け」といわれます。
決して批判せずに聴くこと、ただただひたすら「聴いて共感すること(傾聴)」といわれます。
「積極的傾聴」とも呼ばれます。

 

もちろんそれは、表面的に聴いたふりをしていればいいというわけではなく、ちゃんと心底から共感しながら話を聴け、という意味です。
愚痴を吐き出して心を癒そうというときは、まずはだれか聞いてくれる人がいることが必要ですが、同時にその人が「聞き役」として適切な態度でいてくれるか、ということも重要です。
聞き役が批判的だったり、逆に説教されたりすると、癒しとしての効果は期待できません。

 

たとえその批判や説教がどれほど的を得ていたとしても、明らかに相談者が悪いという場合でも、批判してしまうと心理的な癒しの効果はないのです。
適切な批判と癒し効果は別物と考えていいでしょう。

 

もちろん世の中、批判が必要な場面はたくさんあります。
仕事で批評的なアドバイスがなかったら、いつまでたっても仕事ができるようにはなりません。

 

人はいつも同じ状況でいるわけではないので、批評が必要な時もあれば、邪魔になるときもあります。
批判が必要な仕事の時に傾聴してばかりでは仕事が進まないし、傾聴が必要なときに説教されたらたぶんその人は説教を最後まで聞かずに話を終わらせるでしょう。

 

 

病的な心的問題の解決も基本は共感的傾聴

友達どうしの悩み相談で、基本的に悩みを聞くだけで、「うんうん、そうだねぇ」と共感しているだけで、悩みが解決したりします。

 

実はこれは、もっと重大な心理的な問題の解決でも、かなりの程度当てはまるのです。
たとえばうつ病の患者は、症状が重い間は何もしゃべることができない状況が続きますが、薬や時間経過で回復してくると、ある程度話ができるようになってきます。
そのときに批判せずに傾聴してくれる人がいると、回復も早くなることがあります。
仕事で過労状態でうつ病になった人の場合などは、特に誰か聴いてくれる人がいると、気が楽になることでしょう。

 

ただし普通の人の悩み相談に比べれば、うつ病や心的外傷(トラウマ)の人の話を聴く場合は、より慎重になる必要があります。
もし聞いてくれる人が批判的な態度を取ってくれば、病気が悪化することも考えられるので、責任も重大です。

 

 

勉強の問題解決には聴くだけでは不十分

心理療法の目的は、「療法」という名前のごとく、医療現場での使用を前提にしています。
目的が「心理的に癒すこと」なのです。

 

だから友達どうしの悩み相談のように、話して「あーすっきりした」というだけでも治療は完了します。
もう少しいうと、人間が元から持っている心の自然治癒能力のようなものがあり、信頼できる人に話すだけでも「問題認識・整理」ができるようになり、自力で内的な解決まで到達することがかなりあります。

 

しかし今の目的は、勉強することです。
勉強の悩みを整理して誰かに聞いてもらって「あーすっきりした」では意味がないのです。

 

ここが医療目的の心理療法とは異なるところです。
今のあなたの目的は、心的にすっきりすることではありません。勉強するという行動を起こせるようになることです。

 

なので、誰かに悩みを聞いてもらったり、悩み事を整理するだけでは終わらないのです。

 

 

中毒の治療

心理療法の目的は心的に癒すことが大半なのですが、相談者にはっきりと何か行動を起こしてもらわないと意味がないものもあります。
代表例が中毒患者の場合です。アルコール中毒、麻薬中毒、タバコをやめたい時もこれに当てはまります。
また薬物でなくても、ギャンブル中毒や共依存(誰かにかまってもらい続けていないと心的に耐えられない)なども同じです。

 

これら中毒症状というのは、心理的にすっきりするだけでは問題は解決しません。
うつ病やトラウマなどと違い、中毒というのは行動を変えてしまわないと、根本的な解決にならないのです。

 

勉強も同じように、具体的に何か行動しなければ問題解決になりません。
行動を起こすために何をやればいいのかというと、具体的な行動すべき目標、計画を立てます。そしてその通りに行動します。

 

しかし行動を起こすためにも、まずは心的にすっきりしないとうまく行動を起こしにくいです。

 

中毒行動の改善や習慣の変化のためには、まずは愚痴を吐き出してすっきりすることも重要ですが、次に目標を設定して行動するということも必要になります。

 

目標をどう設定し、どう計画するかは次の章でくわしく説明します。
今はとりあえず、問題を頭の中で整理したり、もしできれば誰か問題について聞いてくれる人がいるといいということを覚えておいてください。