誰かになりきるという思考

コスプレで性格が変わる人の心理

突然ですが、あなたは「コスプレ」という言葉をご存知でしょうか?
コスプレは「コスチューム・プレイング」の略で、アニメや漫画のキャラクターの衣装を制作あるいは購入し、自分で着て楽しむというものです。

 

コスプレを楽しむ人は「コスプレイヤー」略して「レイヤー」などと呼ばれます。自分の好きなキャラクターになりきることは、それ自体が楽しいことです。
このとき、その好きなキャラクターに「なりきる」ことで、その時だけまるで性格が変わってしまう人も少なくありません。
そのキャラクターになりきっているので、自分の性格も一時的にそのキャラクターに近くなるのでしょう。

 

このように、衣装を変えてほかの誰かに「なりきる」だけでも、気分が変わります。
そのキャラクターがスーパーマンのように何でもできるキャラクターであれば、まるで自分が何でもできるように思えることすらあります。

 

こういったことはコスプレだけでなく、たとえば演劇や放送劇(戯曲の朗読のようなもの)でも似たようなことは起こります。
誰かを「演じる」場合、想像力によってその人物になりきることで、身体科学的に起こる気分の変化が伴います。

 

 

モデリングという方法

心理学では「モデリング」という言葉があります。簡単にいうと「模倣(真似ること)」のことです。
私たちは幼児期から、誰かの真似をして学習するようにできています。どこかの学校に通っているわけでもないのに、私たちは自然に日本語を習得します。それは私たちが、周囲の人たちの「真似」をすることによってです。

 

思えば多くの学習は、模倣を基本にしています。語学だけでなく、スポーツや楽器の演奏、数の数え方なども、多くは誰かを参考にして学習しています。
私たちの周囲の人が、誰も数を数えることができず、誰も言葉をしゃべらなかったとしたら、私たちは基本的な数学や語学を身に着けることすらできないでしょう。

 

 

モデリングによって変化するのは気分だけではない

ある心理学の実験で、バイオリンの初心者にバイオリンの演奏の練習をさせたときのことです。
練習する本人が、バイオリンの名人に「なりきって」練習をさせると、普通の練習させるよりもはるかに早く上達した、という結果が出ました。
その人は特に何か特殊なイメージトレーニングをやったというわけでもありません。ただ想像の中でなりきっていただけです。

 

どんな人でも必ずこういう結果が出るわけではないのですが、自分が目指すべき理想の人に「なりきる」ことが、気分だけでなく、能力の変化まで起こさせるというのは驚くべきことです。

 

もちろんただ誰かになりきっただけで、突然能力がものすごく変化したりはしません。このバイオリンの演奏の練習をした人は、ふつうの人よりも想像力が強く、「なりきり」の程度が強かったのかもしれません。

 

 

モデリングで学習効率を高めるやり方

誰かに「なりきる」ことで能力自体が上がる人もいるようですが、ふつうの人ではそこまで劇的な変化は起きません。
しかし瞬間的に気分を変えることくらいはできます。私たちの本能の中にある「模倣」の能力を使い、気分を変化させることで、習慣を変えるための障害である「絶望」「無力感」などは、ある程度の改善が見込めると考えられます。

 

モデリングというのをどのようになるのかというと、先のバイオリンの例では単に「想像の中でバイオリニストになりきって練習してみる」というだけでした。
しかしこれだけでは単なるイメージトレーニングにすぎません。このサイトでは、イメージトレーニングのような、特殊な練習を要する技法は、失敗したときに時間を多量に無駄にするとして、推奨していません。

 

トンデモ理論的なことはリスクが高く、しないほうがいいです。
もっと現実的で、確実なことをやりましょう。もっと私たちが普段やるようなこと、学校や仕事で当然やっている手順の中から抽出した方法を使っていきましょう。

 

モデリングの本来の意味は「模倣学習」です。これは単なる想像だけではなく、分析的な意味も含んでいます。たとえば先ほどのバイオリンの練習の場合、模倣練習は通常、単に想像の中でなりきるだけでは終わりません。

 

普通バイオリンの練習は、上手な人に弾き方を教わります。上手な人の演奏を見ながら、それを「見て」模倣しようとします。
見るだけで模倣できなければ、その先生から具体的に弾き方を教えてもらえます。楽器の持ち方や指の力の入れ方を教えてもらい、また実際に演奏してみていい音が出るかどうかを聞いて反省し、悪い点を見つけ出して訂正していくでしょう。

 

モデリングというのは本来、こういう学習全体のことを意味します。単に見て真似をするだけでなく、誰かに教えてもらったり、自分自身の演奏を聞きながら反省したりするものです。
それはスポーツや楽器の演奏、国語や数学などの学校で習うことでさえ、すべて似たような過程です。
私たちが「勉強の習慣を身に着ける方法」もこれを同じく、誰かうまくいっている人の真似をし、教えてもらい、反省して訂正を繰り返します。
すべて我流で、誰の世話にもならずに身に着けるよりも、ずっと効率がいいはずです。