ハッカー

主人公の名前:深水 玲子(デフォルト)

 

背景_ブラック

 

玲子:…ただいま。

 

効果音_ドアの開く音。背景_玲子の自宅の玄関。中央_小春。

 

小春:おかえり、玲子。今日も遅かったのね。
玲子:ただいま母さん。はぁ…今日も残業でくたくた…
小春:お風呂沸いてるから、今日はゆっくり休みなさい。
玲子:まだ仕事が残ってるの。部屋でもう少し仕事したらお風呂入るわ。
小春:もう10時よ?…無理しちゃだめ。
玲子:わかってる。それより武さん…じゃなくて……父さんは?
小春:ああ、あの人はまだ仕事で…
玲子:ふうん…また母さんほったらかしで、家に帰ってこないんだ?
小春:玲子、そんな言い方しちゃだめっていってるでしょ!
玲子:……わかってる……
小春:……
玲子:……
小春:ああ、そうだ!あのね、玲子のお見合いのお相手を探して来たの。あなたもそろそろこういうことも考える歳でしょ?だから……
玲子:そんなのいらない。私、結婚なんてしないから。それじゃ。
小春:あ、ちょっと…

 

背景_廊下

 

母が再婚して3ヶ月。
前の父親…私の実父は仕事人間で、おまけに浮気したんだかなんだかで、いつの間にか私たちの前からいなくなってた。
今度の父親は…母さんはいい人だっていってるけど、私にはとてもそうは思えない。
相変わらず仕事仕事で1ヶ月に1度、帰ってくるかどうか…それで母さんはずっとほったらかし。

 

玲子:父さんだけじゃない。男は女と違って、みんな信用できないわ。

 

母さんは私に早く結婚してほしいと思っているけど、私は結婚なんかしなくても一人で生きていけると思っている。
仕事だって、同じ会社のたいていの男たちよりはがんばってるし、それなりの成果を出してると思う。
だから毎日帰りが遅いけど。

 

効果音_ドアの開く音。中央_祐樹。

 

祐樹:あ…姉ちゃん…おかえり…

 

玄関から少し進むと、部屋のドアが開いて、私の新しい弟……祐樹が、眠そうな顔で歯ブラシを持って出てくる。

 

玲子:祐樹…あんた、今日は学校行ったの?
祐樹:…行ってない。
玲子:なんでよ?
祐樹:…行きたくないから。
玲子:行きたくなくても行きなさいよ。

 

祐樹は武さん…今の父さんの連れ子で、本当なら高校に行ってるはずなんだけど…

 

玲子:今日は部屋で何してたの?
祐樹:…パソコン。
玲子:あんた、そんなことしてて楽しいの?
祐樹:…することないから。

 

なんなのよこいつ…
私は一人っ子だったから、前から兄弟がほしいって思ってたけど…これは違うわ。
「大事な家族なんだから」って……母さんは祐樹と仲良くしろっていうけど、そんなの無理。
祐樹はもともとおとなしい……というか、はっきりいって根暗。
しゃべるときはいつもうつむき加減で、私としゃべるときはたいていただ質問に答えるだけ。
それで会話が弾まないし、いらいらする。

 

玲子:今日母さんが私のお見合いの相手を探してきたみたいだけど、もし相手があんたみたいなのだったら最悪だわ。
祐樹:…ごめん…
玲子:もっとも私は結婚なんてする気ないけどね。男に頼らなくても生きていけるから。
祐樹:姉ちゃん美人だし、頭もいいし…周りの男の人が放っておかないよ、きっと。
玲子:あっそ。それじゃ私の顔、見ないでくれる?あんたに見られてるだけで私の顔が汚れるわ。
祐樹:…ごめんなさい…
玲子:…もういいわ。部屋に戻りなさい。そのまま永久に閉じこもってるといいわ。
祐樹:うん…おやすみなさい…

 

効果音_ドアの閉まる音。祐樹消失。

 

背景_玲子の部屋、机。ノートパソコン。

 

家にいても会社にいても、心が休まることがない。
でも自分の部屋にいるときだけは、少しは安心していられる。

 

玲子:なんでこんなことになったんだろう?

 

考えてもしかたないから、仕事の続きをするためにパソコンの電源を入れる。
すると、会社からメールが3通来ている。

 

玲子:どうでもよさそうなのはほっといて…ん?なにこれ?

 

「最近、出所不明の人事データが当社内に流出しているとの話があります。不審なデータを見つけられた方は、ただちに連絡をお願いします。情報システム部代表、長谷川より」

 

玲子:人事データ?誰かが社員の情報でも持ち出したのかしら?
玲子:馬鹿ねぇ…ん?

 

「このコンピュータへの攻撃を遮断しました」

 

玲子:またか……

 

1週間くらい前から、このパソコンを使っているとこんな画面がよく出る。

 

玲子:攻撃ってなんだろ?さっきの人事データがどうとか、関係あったりして。
玲子:まさかね…それにセキュリティソフトが入ってるから大丈夫だよね。

 

そのことは置いておいて、私は仕事に取りかかることにした。

 

玲子:経理って、この時期大変なのよね。はぁ…しんど。

 

会社に入ってまだ2年目だけど、この時期は仕事がたまる。

 

玲子:でも母さんも早く休めっていってるし…今日は早く終わろうかな?

 

コンコン(効果音_ドアを叩く音)

 

玲子:誰だろ……どうぞ。
中央_祐樹
祐樹:……
玲子:あんた…さっき部屋に戻ってなさいっていったでしょ。何しに来たのよ?
祐樹:姉ちゃん…お茶。
玲子:ああ、母さんがあんたに持っていけっていったのね?それ机の上に置いといて。あんたはさっさと戻りなさい。
祐樹:うん…あ…
玲子:え?

 

祐樹が湯呑みを私の机の上に置こうとしたとき、湯呑みがお盆の角に引っかかって、私のパソコンの上にお茶が勢いよくこぼれた。

 

玲子:ちょ、ちょっと、私のパソコン!
祐樹:ご、ごめんなさい…
玲子:あんた!このパソコン、会社のデータが入ってるのよ?どうしてくれんのよ!?
祐樹:ごめんなさい…すぐ拭くから…
玲子:ばか!もう遅いわよ!ああ…どうしたらいいの…?

 

こんなにたくさんパソコンに水が入ったら、中のデータが全部消えているかもしれない。
もしデータが消えてたら……今月の仕事が一からやり直し。

 

祐樹:ごめん…姉ちゃん、ごめん…
玲子:もういや…なんで私にはいやなことばっかり…
祐樹:ぼ、僕にできることがあったらなんでもするから…
玲子:なんで…なんで、あんたみたいなのが私の弟なのよ!あんた最悪だわ!いっつもいっつも部屋に閉じこもって…気持ち悪いのよ!なんなのよ、あんたは!
祐樹:…ごめんなさい…
玲子:あんた…さっきなんでもするっていったわね。じゃあ、死になさい!今すぐここで死になさいよ!そうしたら許してあげるわ!
祐樹:……
玲子:もう出て行って!ほら、ほら!出て行きなさいってば!

 

効果音_ドアの閉まる音。祐樹_消失

 

私は謝る祐樹を部屋から追い出して、部屋のドアの鍵を閉めた。

 

玲子:…どうしよう、会社のデータが消えてたら…
玲子:お願いだから、壊れていないで…

 

………
……

 

背景_ブラック。

 

偶然なのか運が良かったのか、データは一つも消えていなかった。

 

///

 

玲子:これからはこまめにデータのバックアップを取るようにしよう……
玲子:それと、家で仕事をするときは誰にも部屋に入れないようにするわ。

 

背景_昼→夜、玲子の自宅の玄関

 

玲子:ただいま。
小春:おかえり。今日は早かったのね。
玲子:母さん、今日は家事は私がするから、休んでていいよ。
小春:ううん、あなたのほうが疲れてるんだから、ゆっくり休みなさい。それより…
武:おお、玲子、帰ってたのか!
玲子:父さん!?
武:ずいぶん遅いな。女がそんなにガツガツ仕事してちゃいかんぞ?嫁の貰い手がなくなるからな!
玲子:……
武:おい小春、玲子の見合いはいつだった?
小春:あ…えっと、18日ですけど…
武:そうかそうか。喜べ!相手は四井商事の常務のご子息だ。お前も気に入るだろう。がっはっは!
小春:あ、あの…あなた、玲子は疲れてるから、お風呂に入りたいって…
武:ん?ああ、そうだな。しっかり疲れを取るんだぞ。体を壊したら子供も産めんようになるからな!
玲子:ええ、そうですね。…失礼します。

 

背景_玲子の部屋、机の上にノートパソコン。

 

…前言撤回。昨日は母さんに、「父さんは母さんをほったらかしにして……」とか言ったけど…

 

玲子:帰ってこなくていいわ、あの男は。
玲子:3人…いえ、2人で暮らしてたほうがまだましだわ。
玲子:母さんの世話は私がすればいいんだし。

 

今日もパソコンの電源を入れる。まだ処理が終わっていない書類がいっぱいある。

 

玲子:…え?

 

なんだろう。パソコンの調子がおかしい。
いつもは電源を入れたらすぐにいつもの画面が出てくるのに…出てこない。
再起動したら正常に戻るだろうと思って、一度電源を切ろうとしてみるけど、なぜか電源ランプがついたままになっている。

 

玲子:再起動…できない?
玲子:な、なによこれ…電源が切れないし…なんで!?

 

背景_パソコンのモニター拡大

 

「私はDex。このマシンは私が乗っ取った」

 

玲子:!!

 

「Dex:君の会社のデータはすべていただく」

 

玲子:な…!

 

画面が暗くなって…なにかわけのわからない文字が、すごい速さで表示されている。

 

玲子:まさかこれが……ハッキング?
玲子:電源を切れば!

 

電源ボタンを押してみるけど、さっきと同じでランプが消えない。
インターネットの回線は無線だから……物理的に切ることもできない。

 

「Dex:セキュリティソフト解除確認。マシンを床に叩きつけるかね?はっはっは」

 

玲子:くっ…なんてことに!

 

会社の機密データを盗まれたなんてことになったら、会社にものすごい損害が出る。
もちろん私はすぐさま解雇されるし、それだけじゃすまないかも……損害金とか発生して……

 

玲子:やめて!お願いだから、ひどいことしないで!

 

「Dex:データ送信準備完了。ではいただくとするか」

 

玲子:やめて…やめてーーーっ!!

 

ガーーー…ピッピッ…

 

玲子:ああ……誰か助けて…

 

「Dex:データ送信準備完了」

 

玲子:……

 

「Dex:データ送信準備完了」

 

玲子:……

 

「Dex:データ送信不可能…セキュリティソフト…解除確認」

 

玲子:?

 

「Dex:データ送信不可能…外部からの妨害を確認。…何者だ?」
「You:出て行け…姉ちゃんにひどいことするな…」

 

玲子:え…?

 

「Dex:また君か…いつも肝心なところで邪魔をする」
「You:ポートを閉じた。これでもう攻撃はできない」
「Dex:…こいつ!」
「You:出て行け」
「Dex:…いいだろう。だが次も防げるかな?」

 

プツッ…

 

玲子:今の何…?
玲子:Youって人が助けてくれたの?

 

さっきの「姉ちゃん」って、私のことなのだろうか。
それに「姉さん」とかじゃなくて、「姉ちゃん」っていう呼び方……

 

背景_祐樹の部屋
コンコン(効果音_ドアを叩く音)

 

祐樹:…はい、どうぞ。
玲子:入るわよ、ユウ。
祐樹:え?

 

中央_玲子

 

久しぶりに入る祐樹の部屋。
部屋にはあまり無駄なものがないけど、パソコンの周辺だけはコードやら部品やらでごちゃごちゃになっている。

 

玲子:あんたでしょ、さっき私を助けてくれたのは。
祐樹:な、なんのこと?
玲子:とぼけないでよ。Youってあんたのことでしょ?
祐樹:う、うん…
玲子:なんで…助けてくれたの?
祐樹:姉ちゃんが…いじめられてたから…
玲子:……
祐樹:……
玲子:誰も…助けてくれなんて頼んでないわ。
祐樹:…ごめんなさい。
玲子:…別に謝んなくてもいいわ。
祐樹:うん…
玲子:ねえ…さっきのDexってヤツ、「また君か」っていってたわ。あんた、前から私のこと守っててくれたの?
祐樹:ん……一週間くらい前から…
玲子:そう…ふうん…

 

こいつ……もしかしたらけっこういいヤツなのかも……

 

玲子:それで、そのDexってのは何者か知ってるの、あんた?
祐樹:し、知らない…
玲子:うそ。知ってるって顔してるわ。教えなさいよ。
祐樹:知らないよ…知らないったら…
玲子:教えると私に何か危険が及ぶとか…くだらないこと考えてるんじゃないでしょうね?
祐樹:ええっ?そ、そんなこと…
玲子:あんた、すぐ顔に出るわね…
祐樹:う…
玲子:教えなさいよ。姉ちゃんの言うことが聞けないの?
祐樹:え、えっと……Dexは姉ちゃんの会社の人だよ…たぶん。
玲子:…は?

 

祐樹の話では、こういうことだった。
私の勤めている会社…「株式会社デーミアン」は、表向きはIT系のソフト会社だけど、裏ではひそかに海外の取引先と人身売買をしているという。
そしてその人身売買の取引データが偶然私のパソコンに紛れ込んで、情報漏れを恐れた人身売買の代表者であるDexが私のパソコンを一時的に乗っ取って、データを抹消しようとした、ってことだけど…

 

玲子:あんた…つくならもっとマシな嘘つきなさいよね。
祐樹:う、うそじゃないよ!本当だよ!
玲子:きゃあっ!いきなり大きな声出さないでよ。びっくりするでしょ!
祐樹:あ、ごめんなさい…
玲子:でもね、いきなりそんなこといわれて、すぐ信じられるわけないでしょ。だいたい何か証拠でもあるの?
祐樹:それじゃあこれ…見てよ…

 

モニターになにやら人の名前がたくさん映し出される。
でもこの人たちの名前、どこかで見たような…

 

玲子:え…?こ、これって…私の会社の人事データ!?しかもコネで入社したとか書いてある……うわぁ……って……ちょ、ちょっとあんた……こんな極秘データ、どうやって手に入れたのよ?
祐樹:ど、どうやってって…取ってきたんだよ、姉ちゃんの会社から。
玲子:と、取ってきた?あ、あはは…あんたって、けっこうおもしろいことできるのね…あはは…
祐樹:こっちが姉ちゃんのマシンの中のデータだよ…これがその…売られた人のデータの一部。
玲子:え…?うそ…な、なにこれ?1人300万って…300万円で人が1人売れるってこと?
祐樹:……
玲子:…な…なによ…なんなのよこれ!なんで…なんでこんなものが私のパソコンの中にあるのよ!?

 

………
……

 

祐樹のいうことが本当だってことはなんとなくわかってきたけど…
こんなにわずかなデータだけじゃ警察が信用してくれず、捜査までしれくれないらしい。
もし人身売買の詳しいデータが手に入れば、今までの原因不明の行方不明の事件と、人身売買の日付が一致することなどわかるから、警察も捜査に踏み切ってくれるのではないかと。

 

玲子:わかったわ。姉ちゃんにまかせときなさい。
祐樹:ええっ!?姉ちゃん、何する気なの?
玲子:大丈夫。だいたいあんた、一人でやろうとするのが間違いなのよ。こういうのはちゃんとしたやり方があるんだから。
祐樹:でもぉ…
玲子:いいから私に任せときなさい。あとね…昨日あんたに死になさいとかいったけど、撤回するわ。
祐樹:え?
玲子:むしろ生きなさい。そんなにすごい能力があるんなら、多くの人の役に立つはずよ?
祐樹:人の役に立つなんて、無理だよ……僕は何もできない。
玲子:馬鹿ね…あんたより数段頭の悪い私でもちゃんと働いてるじゃないの…もっと自信持っていいわよ、あんた。
祐樹:うん……姉ちゃん、ありがとう。
玲子:別に、たいしたこといってないわよ…もう遅いから、あんたも寝なさい。おやすみ。
祐樹:えへへ…姉ちゃん、おやすみっていってくれた…
玲子:ふん…

 

///

 

朝、情報システム部室

 

おととい私のパソコンに来ていたメール。
「不審なデータを見つけられた方は、ただちに連絡をお願いします。情報システム部より」
というわけで、会社の情報システム部に私のノートパソコンを持ってきた。
社内に人身売買をしているチームがあったとしても、それは一部の人たち話であって、それ以外の人たちは良識ある普通の会社員。
ここの人たちならなんとかしてくれるはず。

 

セキュリティ担当員:あの…このコンピュータにはそのようなデータは入っていないのですが…
玲子:え?何言ってるの。ちゃんとここに…

 

昨日見たデータの入っているフォルダを開けてみるが、データがない…昨日はちゃんとあったのに?
祐樹が間違って消してしまったのかしら?

 

玲子:……
セキュリティ担当員:いちおうこのパソコンは私たちが調べてみます。その間あなたには業務用のパソコンを1台お貸ししますので、それでお仕事をお続けになってください。
玲子:え?ええ…わかりました…

 

朝10時、会社の廊下、電話の音、受話器をとる音

 

玲子:ちょっと祐樹、あんた昨日のデータ消した?
祐樹:え、なんのこと?
玲子:昨日見たデータがパソコンから消えてるのよ。なんでよ?
祐樹:なんでって、僕に聞かれても…姉ちゃんがパソコンを乱暴に使いすぎなんじゃないの?
玲子:いうわね、あんた。帰ったら覚悟しなさいよ。
祐樹:わわ、そんなつもりじゃ…
玲子:嘘よ。それより何かいい方法知らない?
祐樹:えっと……知らない。
玲子:……
祐樹:……
玲子:知ってるわね。
祐樹:わ、ご、ごめんなさい。
玲子:教えないとどうなるか…
祐樹:え、えっと…暗証番号がわかれば……
玲子:暗証番号?なにそれ?

 

祐樹がいうには、人事部の機密データを保存しているパソコンがあって……
そのパソコンはインターネットにつながれていないため、ハッキングのしようがない。
だから直接人事部室に行き、そのパソコンを起動させてデータを見るしかないんだけど……
そのパソコンとやらが、暗証番号を知らないと入れない部屋にあるんだとか。
こうなったら、夜、会社のみんなが帰ってから調べにこようか。

 

夜10時、祐樹の部屋

 

帰ってから、祐樹に私のノートパソコンを調べてもらったところ、ハッキングの形跡が見つかった。おそらくDexの仕業。
でもDexはウチの会社の人間なのだから、データをコピーされていたとしても特に問題はないし……
私のパソコンのデータは消されたけど、祐樹が自分のパソコンにコピーしてあるから問題なし。

 

玲子:あんたね……私は乱暴にパソコンを扱ったりはしないわよ。
祐樹:わわ、そんなに気にしてるの?ごめん……
玲子:気にしてないったら。ちょっといってみただけ。
祐樹:なあんだ。
玲子:でもあんた、昨日はDexのハッキングを止めたのに、なんで今日はハッキングされたのよ?手抜き?
祐樹:う……ちょっと目を放している間に……
玲子:ああそう……まあしかたないか。
祐樹:でもパスワードがばれない限り、そう簡単には入れないはずなんだけどなぁ……姉ちゃん、パソコンにパスワードの設定はしてある?
玲子:え?ま、まあしてあるけど……
祐樹:ほんとに?
玲子:してるわよ!ただ、私の誕生日をさかさまにしただけだからばれるかもしんないけど……
祐樹:だ、だめだよ!誕生日はパスワードにしちゃいけないって習わなかった?
玲子:さ、さかさまにしてあるじゃないの!
祐樹:同じだってば……
玲子:……
祐樹:……

 

でも……それならなんでDexは私の誕生日がわかったのかしら?
人の誕生日って、そんなに簡単にわかるものなのかな?
家族とか友達だったら知ってると思うけど、それ以外の人に教えたことないし……

 

玲子:と、とにかく!終わったことはしかたがないわ。それよりこれからのことよ。いい?今から私、会社に行ってその暗証番号とやらを調べに行くからね。
祐樹:ええ!?今から?
玲子:ちょっと!大きな声出すんじゃないの。母さんに聞こえるでしょ。
祐樹:むちゃくちゃだよぉ……会社で誰かに見つかったらどうするの?
玲子:あんただって無茶なことしてるでしょうが。だいたいハッキングって犯罪でしょ?
祐樹:う……まあそうだけど。
玲子:あんたさ、そんな危険を冒して……なんでそこまでして会社と戦おうとするの?何か個人的な恨みでもあるの?
祐樹:それは……

 

祐樹は机の中から1枚の写真を取り出した。
写真には祐樹ともう一人、小さい女の子が写っている。
最近の写真らしく、今ではあまり見ないけど、祐樹は高校の制服を着ている。
女の子はセーラー服を着てるから……中学生かな?

 

玲子:この子、あんたの彼女……じゃないわよね。誰よ?
祐樹:妹だよ。妹の春奈。
玲子:え、あんた妹いたの?って、なんで今まで私に黙ってたのよ?
祐樹:……今、いないし。
玲子:いないって、どういうこと?

 

祐樹の話によると、この春奈って子は、この写真が撮られた少し後に行方不明になっている。
原因が不明で、警察の捜査も迷宮入り。
しかし祐樹が独自に調べたところ、その真相は……

 

祐樹:姉ちゃん、これ見て。

 

祐樹が前にも見せてくれた、デーミアンの人身売買のデータ。
その中に、「深水春奈」という名前がある。

 

玲子:……
祐樹:春奈はこの世界のどこかに生きてる。だから連れて帰って、また家族で楽しく過ごすんだ。

 

家族で楽しく……か。
最近私、家族で楽しく過ごしたことってあったかな?

 

玲子:あんた、家族で楽しく過ごすていうけど……その……私もその中に入ってるの?
祐樹:え?……入ってるけど、それがどうかしたの?
玲子:いえ……別に。
祐樹:春奈が帰ってきたら、姉ちゃんと僕も入れて3人で遊ぼうよ。
玲子:遊ぶって、何して遊ぶのよ?
祐樹:うーん……なんだろ?なんか楽しいこと。
玲子:楽しいこと?まあいいわ、ふふふっ。
祐樹:えへへ……

 

じゃあ、この春奈って子は私の妹なんだ。
血はつながってないけど、れっきとした私の妹。

 

玲子:ちょっと、その写真よく見せてよ。
祐樹:あ、はい。
玲子:春奈ちゃんか……かわいい子ね。むさくるしいあんたとは大違いだわ。
祐樹:むさくるしいのかなぁ、僕って……
玲子:とてもあんたの妹とは思えないわ。
祐樹:そんなぁ……

 

……そうでもないか。
祐樹って、髪がぼさぼさでわかりにくいけど、よく見ると顔はけっこうかわいいかも。

 

玲子:ま、遊びに行くときは散髪にいっておきなさい。それで少しはマシになるわ。
祐樹:散髪ってめんどくさいなぁ……
玲子:なんなら今度の日曜、私の行きつけの美容院まで連れて行ってあげようか?
祐樹:い、いいよ、美容院なんて。普通の床屋さんでいい。
玲子:そう?遠慮しなくていいのよ?ふふふっ。
祐樹:遠慮なんてしてないよ。あははっ。

 

………
……

こんなに笑ったの、何ヶ月ぶりだろう?
いや、何年ぶりかも……

 

……

 

玲子:母さんが寝たから……行くわ。
祐樹:危なくなったら、すぐ戻ってきてよ。
玲子:……いつから私の心配できるほど偉くなったのよ、あんたは。
祐樹:だって……
玲子:しっかりしなさい。春奈ちゃんを助けるんでしょ?
祐樹:う、うん。絶対助ける!
玲子:その意気よ。じゃあ、後は頼んだわ。行ってくる。

 

背景_黒

 

私は家を出てタクシーに乗って、30分くらいで会社に着いた。
もう時計は12時を回っている。さすがにこの時間まで仕事をしている人はほとんどいないはず。
私は勝手口から入り、鍵を取って、人事部室へ向かった。
いちおう500人は収容できるくらいのビルだし、深夜残業とかやってる人もいるはずで、まだ会社に残っている人はいる。
私は経理の人間だから、人事部室にいるところを誰かに見られたら怪しまれる。
……
そして人事部室に着いた私は、できるだけ音を立てないように、慎重にドアを開けた。

 

背景_人事部室、効果音_ドアを開ける音

 

……
部屋は真っ暗で、誰もいる気配がない。

 

玲子:誰もいないうちに探して、さっさと機密データの入っているパソコンを見つけてしまおう。

 

部屋には社員たち一人一人のためのパソコンがずらりと並べられているだけだけ。
正直、人事部っていいイメージがない。
というのは、私の実父がもともとここの人事部長をしていたのであって……
それで父さんの紹介で私はこの会社に入れたんだけど……
母さんを捨てたあの男がここにいたのかと思うと、気分が悪くなるわ。

 

玲子:……この部屋は?

 

部屋の一番奥に、ガラスで仕切られた小さな部屋がある。
その入り口はどうやら、正しい暗証番号を入力しないと開かないようになっているらしい。

 

玲子:これか……さて、問題の暗証番号ね。

 

この暗証番号、全部で8桁ある。
でたらめに入れてみたところで、成功する確率は1億分の1?
仮に00000000から99999999まで全部試したとすると……1億回入力が必要で、とても1日や2日で終わるものじゃない。
それにこういう暗証番号って、何度も間違うと管理者にばれるんじゃなかったっけ?

 

玲子:どうすんのよ……

 

ドアをこじ開けようとしてみるけど、ガタガタと音がするだけで開きそうにもない。

 

玲子:……このっ!

 

ドアを力いっぱい引こうとしたとき、手が滑ってドアノブから手が勢いよく離れ、ひじがガラス窓に当たって大きな音がした。
するとその音が聞こえたのか、廊下の向こうから誰かが歩いてくる足音が聞こえてきた。

 

玲子:隠れないと……!

 

私は見つからないよう、机の下に隠れた。
少し急ぎ気味の足音が、どんどん近づいてくる。

 

社員A:誰かいたかと思ったが……気のせいか?
社員B:何か物が落ちた音だろ。こんなに書類が積み重なっているんじゃあな。
社員A:いちおうあの部屋も調べておくか……スピードのことがばれたら、俺たちもえらいことになるぜ?
社員B:めんどくせぇ……早く帰ろうぜ。

 

玲子:スピードってなんだろう?聞いたことのない言葉だわ。

 

すると2人は奥の仕切られた部屋に行って、暗証番号を入力し始めた。

 

玲子:番号を入力してる?でもこの位置からじゃ見えない……あの数字さえわかれば……

 

体を乗り出して入力された番号を見ようとするが、もう入力が終わってしまっていた。
2人はドアを開けて部屋に入って、少し中の様子を見ただけで、すぐに出てきてドアを閉めてしまった。

 

玲子:あの番号さえわかれば……いえ、少なくともこの2人は暗証番号を知っていることがわかったわ。それだけでも……
社員B:何も異常なし、っと。さて、帰ろうぜ。
社員A:そうだな。それにしてもさ、この暗証番号ってあの非常勤役員さんの誕生日なんだろ?
社員B:それをさかさまから入れるんだよ。忘れたか?
社員A:いや、忘れちゃいないけどさ、暗証番号に誕生日を入れるなって誰かが言ってなかったか?
社員B:……あの人の誕生日なんて誰も知らんだろ。行こうぜ。

 

そういって2人は部屋を出て行ってしまった。

 

玲子:非常勤役員……それに誕生日をさかさまに入れてるって、まさか……

 

私はすぐに携帯電話を取り出して祐樹にかけた。

 

玲子:ちょっと祐樹、今パソコンつけてる?この会社の非常勤役員のデータを出してちょうだい。
祐樹:え?ちょっとまって……うん、出したよ。
玲子:名前を順番に言ってみて。
祐樹:ええと……鈴木圭介、黒田敏三、市川薫……
玲子:わかった、もういいわ。番号はわかったから。
祐樹:え、どういうこと?

 

背景_仕切り部屋

 

私は仕切り部屋の前に立ち、「スタート」ボタンを押して、番号をし始めた。

 

玲子:もし間違ってたら……全速力で逃げ出そうか。いや、無理かな?きっと部屋のドアに自動で鍵がかかるようになってるわ。
玲子:お願いだからうまくいって……私の推測が正しければ……

 

8・1・5・0・2・5・9・1
…………
「ロック解除」

 

玲子:やっぱり……そっか、そうだったんだ……

 

部屋の中のパソコンをつけると、昨日祐樹に見せてもらったデータの続き……人身売買の詳細データが出てきた。
売買された人の名前からその日付まで……

 

祐樹:姉ちゃん、どうしたの?うまくいったの?
玲子:ええ、何もかもうまくいったわ。私たちの勝ちよ。あんたのパソコンにメールするから、メールソフトを起動して。

 

そして私はそのデータをメールに添付して、祐樹のパソコンへ送った。

 

背景_玲子の自宅

 

家に帰ってきたのは夜の3時ごろだった。

 

玲子:今ごろ祐樹がデータをメールに添付して警察に送っているはず。もう終わったかな?

 

いつもと変わらない、見慣れた自分の家。
春奈ちゃんが戻ってくるまで少し時間がかかるかもしれないけど、これからは私と父さん母さん、そして祐樹と春奈ちゃんの5人で暮らすのか……

 

玲子:なんでだろ……これから家に帰るのがすごく楽しみになってきそう……
玲子:父さんは相変わらずほとんど帰ってこないかもしれないけど……祐樹と春奈ちゃんとはいっぱいおしゃべりできるよね。

 

私はうきうきした気分で祐樹の部屋へ入った。

 

///

 

背景_祐樹の部屋、荒らされている

 

玲子:……え?

 

部屋を出る前とはうってかわって、部屋が荒れている。
祐樹の部屋はもともと散らかっていたけど……でもこれは散らかったなんていうレベルじゃない。
パソコンのディスプレイが割れていて、キーボードが床に転がっており、窓ガラスが破られている。
なにより、部屋に祐樹自身がいない。

 

玲子:まさか……祐樹!?

 

背景_廊下

 

部屋を出てみても、祐樹の部屋以外は何も変わっていない。

 

背景_玲子の部屋
背景_台所
背景_祐樹の部屋

 

玲子:祐樹が……何者かにさらわれた?でも誰が?Dex?どこにいるの?

 

とにかく警察へ……連絡しようとしたとき、部屋にボールペンが落ちているのが目に入った。

 

玲子:このボールペンは……そっか、やっぱりあの人がDexだったんだ。
玲子:……
玲子:確かめないと……私の目で、本当のことを確かめないと。

 

背景_デーミアン株式会社の人事部室

 

午前4時半……もうすぐ夜が明けそうな時刻に、私はもう一度会社の人事部室にやってきた。
Dexに会うために。

 

背景_仕切り部屋の中

 

玲子:Dex……忘れ物よ!あなたのお気に入りのボールペンが祐樹の部屋に落ちてたわ。
??:部下たちには……社内で暗証番号を口に出すなと言ってあったのだが……うっかりしゃべってしまったのか、それとも……
??:番号が私の誕生日であることを部下の誰かがしゃべって、それをお前が聞いていたのか……まあどちらでもいい。
玲子:……
??:だが人事データに記録されている私の誕生日は嘘の日付でね……おまけに番号はさかさまにひっくり返してある。
??:だからたいてい私の秘密を探ろうとしてこの部屋に侵入しようとする者はここでボロを出して私に捕まるのだが……お前はそうはいかなかった。
玲子:それはそうでしょう。だって私はあなたの本当の誕生日を知っているし、暗証番号をさかさまにすることを私に教えてくれたのはあなたなのですから……そうでしょう、父さん?

 

そういうと、Dex……私の実父である黒田敏三は、祐樹を連れて私の前に姿を現した。

 

敏三_左、祐樹_右

 

祐樹:姉ちゃん!
玲子:ちょっと待ってなさい。すぐ助けてあげるから……
敏三:助ける?そんなことがお前にできるのかい、玲子?
玲子:時間の問題です。あなたが行っている悪事のデータは、もうメールに添付して祐樹に送ったから。もう警察には出してあるんでしょ、祐樹?
敏三:残念だが……社内から送信されるメールはすべて私のマシンを仲介することになっていてね……差し止めさせてもらったよ。もともとセキュリティのためだが、こういう使い方もできるのだよ。つまりこの少年は、そのようなデータを受け取ってはいない。
玲子:な……うそでしょ?祐樹?
祐樹:……

 

祐樹は力なくうつむいていて、返事をしない。

 

玲子:そ、そんな……
敏三:まあよかった。こうなって、私だけでなくお前にとってもハッピーエンドなんだよ。わかるかい、玲子?
玲子:私にとってハッピーエンドって……どういう意味?
敏三:考えてもみなさい。お前は私を訴えるつもりだったんだろうが、その後のことは考えてたのかい?
玲子:その後って……その後は祐樹と春奈ちゃんを助けて、家族で仲良く暮らすのよ。それがどうしたっていうの?
敏三:会社が訴えられて倒産すれば、お前はまた一から出直しだよ。職が見つかるかどうかもわからない。せっかく昇進のチャンスをつかんだというのにね。
玲子:悪事を容認する会社になんかいたくはないわ。
敏三:この会社にいる限り、お前は安泰だよ。私がいるからね。結婚などしなくても一人で生きていける。それがお前の望みではなかったのかい?
玲子:それは……
敏三:お前はよく言っていたね、家庭など持ちたくないと。私も同じことを思っていた。だからこうして独りでいるのだ。独り身はいいぞ?気楽でな。
玲子:私は……独りでいたくない。父さんのようにはならない。
敏三:なんだと……それは初耳だな。何があったのだ?
玲子:別に何もないわよ。ただ今までと違って、家に帰るのが楽しみになっただけ。こんな当たり前の気持ち、どうして今まで忘れてたのか不思議だわ。
敏三:その気持ちも最初のうちだけだ。最初は愛することが喜びだったのが、時間がたてば、ただ自分を縛り付ける重荷になる。だったら最初から独りでいればいい。
玲子:私はあなたとは違う。私は自分の家族を最後まで愛しぬく自信があるもの。
敏三:口で言うほど簡単なことではないよ。お前はまだ結婚したことがないからそういうことが言えるのだ。考え直しなさい。

玲子:あなたは……本当に大切な人がどこにもいないからそういうんでしょう?母さんなら絶対そんなことは言わないわ。
敏三:……なら、お前にはそれほどまでに大切な人がいるというのかね?
玲子:……いつも一人ぼっちで寂しがってる母親とか、根暗で引きこもりの弟とか……いくらでもいるわ。
敏三:ふむ……お前もずいぶん昔とは変わってきたものだな。
玲子:父さんが独りでいたいのなら、独りでいればいいじゃない。それをどうこういうつもりはないわ。
玲子:でも私には大切な家族がいるんです。だから祐樹と春奈ちゃんを返して!
敏三:……それとこれとは別問題だな……お前がどうしても私たちを訴えるというのなら、強行手段しかあるまい?
玲子:ちょっと待って……父さん、もうやめて。それ以上したら、もっと罪が重くなるだけよ?
敏三:少しの間おとなしくしていてもらうぞ……

 

背景_明るくなる

 

??:黒田敏三!動くな、警察だ!
敏三:!!
玲子:え……?あなたは確か……
??:情報システム部代表の長谷川です。あなたのパソコンを調べていたところ、当社の人事部のパソコンからのハッキングの形跡がいくつも見つかりましてね。極秘でサイバーポリスの方たちに捜査をしていただいていました。

 

すると20人近くもの警官たちが入ってきて、父さんやその部下の人たちもすべて、あっという間に捕まえてしまった。

 

敏三:馬鹿な……極秘捜査だと?嘘をつくな、そのような形跡はなかった!
長谷川:……本人にばれるようじゃ極秘捜査にはなりませんよ。
敏三:こんなことが公になれば……わが社にとって大きな痛手になるはずだ。それも考えた上での行動か?
長谷川:ほうっておけばもっと罪状が重くなって取り返しがつかなくなりますよ。……私も転職考えるか……

 

父さんは手錠をかけられてしまい、何人かの警察官に連れられて部屋を出て行ってしまった。
私は祐樹のところへ行き、両手に結ばれた縄をほどいてやった。

 

玲子:祐樹!……ちょっと、大丈夫?何もされなかった?
祐樹:うん……姉ちゃん、僕のこと心配してくれてるの?
玲子:……
祐樹:姉ちゃん?
玲子:あんたね……私にこんなに心配かけさせて、ただで済むと思ってんの!?
祐樹:ええっ?ぼ、僕のせいじゃないよぉ……
玲子:もう……お馬鹿……
祐樹:姉ちゃん……泣いてるの?
玲子:泣いてなんかないわよっ!さあ、明日も早いんだからさっさと帰って寝るっ!
祐樹:寝るって……もう朝だよ?それに……

 

言い訳する祐樹を引きずって、私たちは家に帰った。

 

背景_ブラック

 

それから2ヶ月が過ぎた。
私は新しく小さな会社に就職した。
給料は減ったけど、以前よりも家族でいる時間が取れるようになった。
祐樹はそのコンピュータのスキルを買われ、コンピュータ専門の会社に就職が決定した。
まだ高校生だから正式採用ではなくてアルバイト扱いだけれど。

 

イベントCG_エンディング:空港

 

春奈:お兄ちゃん!
祐樹:春奈……お帰り。
春奈:怖かったよ……
祐樹:もう大丈夫だよ。家に帰ろう?
春奈:うん……ねえお兄ちゃん、その人は誰?
祐樹:お前のお姉ちゃんだよ。あのね……

 

祐樹は私たちの親が再婚したことを話した。
新しく兄弟が増えて、春奈ちゃんが戸惑うかと思ったけど、案外そうでもない様子。

 

春奈:そうなんだ。それじゃあ、これからよろしくお願いします!えと……お姉ちゃん?
玲子:うん、そう呼んでね。こちらこそよろしくね、春奈ちゃん。
春奈:えへへ……あたしお姉ちゃんがほしかったんだっ。うれしい!