新・十二支

みなさん、干支の順番がどのようにして決まったかご存知ですか?
これは中国に伝わる干支のお話です。

 

むかしむかし、神様が12種類の動物で年を表そうと考えました。
その順番をどうしようか考えたところ、動物たちに競走をさせて決めることにしました。
ね、うし、とら・・・という順番は、その競争で速いものから順番に決められたのです。

 

しかしそこは単なる競争ではありません。
たとえば牛は歩くのが遅いので、夜明けの早い時間に出発しました。
それで牛は1番になりかけたのですが、牛の頭の上にいたネズミが、ゴール直前に牛の頭からゴールへ飛び降り、1位になったのです。

 

ほかの動物たちにもそれぞれストーリーがありますが、ここではひとまずそれは置いておきましょう。
これからお話しする物語は、神様が再び干支を決めなおそうというお話です。

 

 

神は言った。(鼻くそを小指でほじりながら)
神「暇やから、これから新しく干支を決めることにするッ!ルールは簡単!この田舎町でのロードレースだッ!スタートラインにすべての動物がいっせいに並び、よーい、ドン!」

 

神「距離は5000メートル!前回と同じで、早いものから順に干支を決めることにするッ!どんな方法を使ってもかまわん!とにかく早い者勝ちだッ!何か質問はあるか!?」

 

牛はネズミに言った。
牛「おいネズミ……前回みたいに、ゴール寸前で俺を追い抜こうなんて考えないほうがいいぜ。その気になりゃあ、てめえなんざ瞬時に踏み潰せるんだからな……」

 

ネズミ「ちゅー・・・」

 

トラは神に言った。
トラ「なあ神さんよォ……あいつらはなんだ?ひょっとして新参者か?」

 

神は答えた。
神「……今回は陸上生物に加え、鳥類も追加した。彼らは強敵になるだろう!新たに加わった動物は……ワニ、サソリ、タカ、ワシの4匹だ!」

 

トラは考えた。
トラ「なんだってェ〜……?ワニとサソリはともかく、タカとワシはいったん飛ばれたら、もう俺ら陸上生物じゃ追いつけねぇスピードだ。だとしたら……」

 

神は言った。
神「準備はいいかお前ら?」

 

ネズミ、牛、トラ、ウサギ、辰(タツノオトシゴ)、蛇(コブラ)、馬、羊、ニワトリ、サル、イヌ(猟犬)、イノシシ、さらに今回加わったワニ、サソリ、タカ、ワシがスタートラインに着いた。

 

神「いくぞ……よーい……ドン!」

 

最初に出たのはトラだった!
トラ「うおおおおお!」

 

トラは猛スピードでワシに突っ込んでいった。

 

トラ「まずてめぇを始末するッ!空に飛び立つ前にッ!いっぺん空に飛ばれたら俺らにゃ永久に追いつけねぇ!今のうちにぶっ殺す!」

 

ズギュン!トラの牙がワシに食い込んだ。

 

トラ「やったッ!捕らえたぞッ!このまま食い殺して……な……こ、これは……ニワトリ?」

 

ワシはトラを見下ろして言った。
ワシ「くくく……てめぇが最初に俺を狙ってくるのはわかっていたさ。だからそのニワトリに泥をまぶしておいたのさ。泥の色であたかもニワトリはワシのように見える」

 

トラはあわててワシに飛びつこうとするが間に合わない。
トラ「ち、ちくしょう!」

 

ワシは飛び立ってしまった。
ワシ「くははは!」

 

ワシとタカはすぐに空の向こうへ、消えていった。

 

しかしいつまでもこの2匹に気を取られている場合ではない。まだライバルたちはたくさんいる。
トラ「クソッ!1位と2位はやつらに取られるか……しかし!」

 

陸上ではすでに問答無用の争いが行われていた。

 

ネズミは蛇に食べられた。
ウサギと羊はトラに食べられた。
イノシシはイヌに食べられた。

 

しかしそんな争いを無視して馬はいきなりダッシュしていた。

 

トラ「な、なんだと!?馬、てめぇ……」

 

馬は嘲笑いながら言った。
馬「バカめ!短距離戦ならともかく、長距離なら陸上生物で俺にかなうヤツはいない!最初に俺を食い殺さなかったのは誤算だったな、トラ!」

 

トラ「くっ……くそっ!」

 

あわててトラが馬を追うが、間に合わない。トラは瞬発力があったが、すぐに息切れしてしまった。

 

一方、牛はこのような争いを避けて歩いていた。

 

牛「俺はマイペースで行くぜ。まあ小動物よりは早くゴールできるな。サソリとか蛇とかよりは」

 

サソリ「ソウハイカネェゼ」

 

いつの間にかサソリが牛の背中に乗っている。
サソリはしっぽを振り上げた。
サソリ「オレノドクデシニナ!」

 

 

 

 

ドブスッ!
サソリのしっぽが牛の背中に直撃。

 

牛「ぐおおッ!な、なんのこれしき……」

 

サソリ「ヤハリイチゲキデハシナナイカ……オイ、オマエノデバンダゼ!」

 

コブラ「悪く思うなよ……牛」

 

牛「お、お前ら……二人で……謀りやがったな……ッ!」

 

コブラが牛に噛み付き、毒が回り、牛は倒れた。

 

牛「む、無念……」

 

サソリ「ツギハアイツヲヤルゼ」

 

コブラ「おうよ……だがヤツはなかなか手ごわそうだ」

 

サソリとコブラはワニに近づいていった。

 

サソリ「ハイゴガスキダラケダゼ!クラエ!」

 

サソリのしっぽがワニの背中に直撃し、ほぼ同時にワニの喉元にコブラが噛み付いた。しかし。

 

サソリ「ナ……ナンダッテ?マッタクササラナイ。コ、コイツノカタサハ……」

 

コブラ「いや……逆に……俺の歯が折れちまった!な、なんだこいつの皮膚の硬さはッ!?」

 

ワニ「痛くも痒くもねぇんだよ……文字通りのこの虫ケラどもがッ!」

 

サソリとコブラは、逃げるまもなくワニに食べられた。
一方、イノシシを仕留めたイヌとサルは取っ組み合いのけんかをしていた。

 

サル「今日こそケリをつけてやるッ!」

 

イヌ「望むところだぜッ!」

 

イヌとサルはひたすら戦っていた。

 

また、タツノオトシゴはワニに踏み潰されてすでに死んでいた。

 

神「現在の生き残りは……早い順に、タカ、ワシ、馬、トラ、ワニ……そしてイヌとサル……か」

 

神「小動物は全滅か……そして首位争いをしているのは……やはり鳥類の2匹か」

 

タカの真後ろにぴったりワシがくっついて飛んでいた。

 

タカ「バカな……!絶対速度では俺のほうが早いはずなのに……ま、まさかこれは……」

 

ワシ「タカぁ……スリップストリームって知ってるか?てめえのすぐ後ろを飛んでりゃ、空気抵抗が少ないから通常より速い速度で飛べるんだよ」

 

タカ「そんなもの……なくしてやるぜ!」

 

タカはアクロバットな飛行をしてワシのスリップストリームを減らそうとするが、ワシはぴったり後ろにくっついてくる。

 

タカ「こ、こいつ……なめていた……飛行速度は俺より劣るが、コントロールがいい……」

 

ワシ「今てめぇは全速力で飛んでいる。だがまだ俺は全力じゃないぜ?まあ85パーセントってところか?」

 

ワシ「このままてめぇの後ろにぴったりくっついて、ゴール直前にブチ抜きゃ俺の勝利ってことさ!」

 

タカとワシは、ゴールまであと300メートルのところまで来ていた。

 

タカ「お前さ……俺を利用して、最後に一番おいしいところだけいただこうなんて、そんなオイシイ話が自然界に存在すると思うのか?」

 

ワシ「ああ?こんなときに道徳の授業か?アホか?」

 

タカ「そんなオイシイ話はねぇって言ってるんだよ。お前はスリップストリームの弱点を知らない」

 

ワシ「スリップストリームの弱点だと?いまさら何いってやがる!さあ、もうゴール直前だぜ!ブチ抜いてやる!」

 

その瞬間、タカは速度を落とし、急上昇した。
ワシはそのまま速度を落とさずにゴールへ突っ込んでいく。

 

ワシ「う……こ、これは!?」

 

ワシの目の前に一本の線が横切っている。

 

タカ「そいつは人間が作った鉄塔の送電線ってヤツさ。見かけによらず、けっこう硬い金属でできていてな……」

 

タカ「スリップストリームの弱点……それは前方の視界が悪くなることだ。送電線はけっこう細くて見えにくい。注意してないと激突して死んじまうぜ?今からのお前のようにな」

 

ワシ「しまった!スピードが乗りすぎて……か、かわせな……」

 

ドギャス!

 

ワシ「うッぼァァァァーーーーッッ!!」

 

タカ「……」

 

そのころ格闘していたイヌとサルは、力尽きて共倒れになってしまった。

 

神「勝負あったな!では新しい干支を発表する!」

 

神「順番に……タカ、馬、トラ、ワニ!」

 

神「これからは十二支ではなく四支とするッ!……以上ッ!」