ファランクス(短編)

7月、午後4時。天候は晴れ。日が斜め。日光の色は黄色。
若狭女子高等学校(学校名は提示しなくていい)、放課後の帰り際。
女生徒C,Dが玄関から出てくる。アスファルトの上を歩いている。Cが先を歩いている。一緒に歩いているわけではない。
生徒の服装は夏のセーラー服。
3階のホール前。
新城が真琴のかばんを左手に取り、真琴と一ノ瀬右手にテスト用紙を見せつける。21点の数字がよく見えるように。

 

新城「水野、お前ほんっっとうにバカだな」

 

一ノ瀬が真琴の背後から真琴を抱きしめ、動けなくしている。

 

真琴「返して!……ううっ!」

 

真琴、一ノ瀬から脱出しようとするが、一ノ瀬が真琴をさらに締め付ける。
一ノ瀬、真琴を見て

 

一ノ瀬「お前、脳ミソ腐ってんじゃねぇか?」

 

一ノ瀬、いかにも馬鹿にしたような口調で

 

一ノ瀬「あーあ、水野真琴は21点かぁ!(わざとらしく大声で)」

 

3-1側の廊下にいた女生徒Aが疑問の表情で振り向く。
真琴、不安そうに

 

真琴「やめて!大声でいわないで!」

 

新城、テスト用紙を高く掲げてひらひらさせて

 

新城「水野真琴のテストの点数は21点でしたーーっと!(わざとらしく大声で)」

 

真琴、泣き出す。
新城、一ノ瀬、愉快な気分になって嘲り笑う。
鏡美、教室から音楽室の廊下を歩いていて、真琴たちに気づく。不審な表情で近づく。
鏡美、怒って

 

鏡美「ん?……ちょっと!あんたたち何してんのよ!」

 

一ノ瀬、新城、驚いて鏡美のほうへ振り向く、一ノ瀬は真琴を離す。
真琴、一ノ瀬から少し離れて、少しよろめく。弱弱しく

 

真琴「鏡美ちゃん……」
新城「こいつ、川崎鏡美か……」
一ノ瀬「川崎って、学年成績でいつもトップ10番以内に入ってるヤツか?」

 

鏡美、真琴に近づき、二の腕をつかんで心配そうな表情で

 

鏡美「真琴!……泣いてるの?」
真琴「ううん」

 

鏡美、真琴の顔をよく覗き込んで

 

鏡美「泣いてるじゃないの!」

 

鏡美、新城と一ノ瀬をにらみつけて

 

鏡美「あんたたち!」

 

新城、一ノ瀬、気まずい表情。

 

新城「ちっ(舌打ちする)」
一ノ瀬「新城……あっ」

 

新城、後ろを向いて撤退する。一ノ瀬、新城を追う。
新城、少し後退してから顔だけ振り向いて、真琴に向かって。

 

新城「お前みたいなバカが、何でこんな優等生と仲がいいのかわかんねぇな」
一ノ瀬「優等生かよ……ムカつくな」

 

新城と一ノ瀬、背を向けて階段のほうへ歩いていく。

 

鏡美、にらんでいる。真琴、不安そうな顔。
鏡美、真琴のほうを向いて心配そうに

 

鏡美「あの二人にいじめられていたのね?」

 

真琴、無理して笑顔を作って

 

真琴「大丈夫だから」
鏡美「大丈夫じゃないでしょ!」

 

鏡美、スカートのポケットからハンカチを取り出して、真琴の涙を拭いてやる。
鏡美、心配そう。真琴、落ち込んだ表情。

 

鏡美「あんなのにかまってちゃだめよ」
真琴「無理だよ。逃げられないよ……」

 

鏡美、真琴を軽く揺さぶって。

 

鏡美「そんなことないから!がんばって、強くなるのよ!」
真琴「う、うん……」

 

鏡美、手を離して直る。表情が通常に戻る。

 

鏡美「……帰ろっか」

 

真琴、少し元気が戻る。表情が普通に戻る。

 

真琴「うん」

 

玄関。下駄箱前の廊下に夢見が立っている。

 

鏡美「夢見!」

 

夢見が真琴と鏡美に気づいて振り向き、笑顔になって手を振る。
真琴と鏡美が夢見のところへやってくる。
鏡美と夢見は笑顔、真琴は普通の顔。鏡美と夢見はうれしそうに話す。

 

鏡美「待たせた?」
夢見「ううん、帰ろ!」

 

帰り道。4:30ごろでまだ十分明るい。空がやや晴れてきている。
南川沿いの道。真琴、鏡美、夢見の3人が下校中。
鏡美が真ん中、真琴と夢見はそれぞれ右端、左端で並列して歩いている。

 

夢見「テストの点数悪かったなぁ(やれやれ、という表情)」
鏡美「それじゃ、復習しておかないとね(微笑して)」
夢見「えー、勉強やだー(嫌そうに)」
鏡美「もう!(しょうがないなー、という表情)」
夢見「私は鏡美ちゃんみたいに頭よくないし、勉強しても無駄だよー(開き直った表情で)」
鏡美「がんばれば成績上がるよ(やれやれといった表情で)」

 

真琴が元気がない。それに夢見が気づいて心配そうに

 

夢見「真琴ちゃん、どうしたの?何かあったの?」
真琴「え?(はっとして)ううん、なんでもないよ(微笑して)」

 

鏡美、気まずそうな表情。心配そうな顔。

 

夢見「そう?ならいいけど……元気出してね?(心配そうに)」
真琴「うん、ありがとう(うれしい)」

 

夢見、真琴、笑顔になる。
少し間をおいて、夢見、元気そうに二人に向かって話す。鏡美も楽しそう。

 

夢見「ねえねえあのね、ファランクスっていうゲーム、知ってる?」
鏡美「ファランス……ファランクス?」
夢見「うん!パソコンで遊べるオンラインゲームだよ。スマホでもできるよ!」
鏡美「へぇ……おもしろいの?」
夢見「おもしろいよー?そうだ、鏡美ちゃんと真琴ちゃんもいっしょにゲームやろ?」
鏡美「そういうのあんまり興味ないんだけどなぁ……なんで?」
夢見「えへへ……(ちょっと気まずそうに)友達を誘うとポイントがもらえるんだぁ」
鏡美「なぁんだ、そういうことか……(やれやれな表情)」
夢見「だめ?」
鏡美「うーん……それどんなゲームなの?」

 

夢見、スマートフォンをスカートのポケットから取り出し、楽しそうに笑顔で鏡美と真琴に見せる。

 

夢見「これ!」

 

画面いっぱい、スマートフォンの画面。
若狭女子高校の校舎の概観が映し出される。
スマホ画面のまま。

 

夢見「これがゲーム画面だよ」
鏡美「これ、私たちの高校じゃない?」
夢見「そう!現実と同じ世界が舞台なんだよ」

 

真琴、鏡美、夢見のスマホを見ながら驚く。

 

真琴、鏡美「へー!」

 

再びスマホの全画面になる。ヘルプ画面が開いて動画の説明になる。
概念説明図になる。ファランクスの世界では、グループ単位で世界に入り、それぞれのグループは別のグループとは接点がない状態の図が示される。

 

夢見「ファランクスにはね、グループっていう単位で入れるんだよ。たとえば私と真琴ちゃんと鏡美ちゃんで入ると、こんな感じで……」

 

ヘルプの画面、グループに真琴、鏡美、夢見がいる。そして別のグループが2つある。

 

夢見「私たち3人がファランクスの世界に入ると、ファランクスの学校の中には私たち3人だけとしか会わないから安全なんだよ」
鏡美「ふーん。でも3人だけで何するの?ゲーム?」
夢見「ゲームで遊ぶこともできるよ。でもね……」

 

ヘルプの図にコミュニティの概念が加わる。それぞれのグループをコミュニティでつなぐ線が入る。

 

夢見「コミュニティっていうのがあってね、その中ではほかのグループの人たちとお話したりできるんだよ。ほかの人たちと友達になったりして……うーん、部活みたいなものかなぁ?たとえばねぇ……」

 

スマホの画面、愛犬コミュニティの画面に切り替わり、犬の写真が出る。

 

夢見「これ、愛犬コミュニティっていうんだよ。犬が好きな人たちが集まって、写真とか投稿してるんだよ」

 

鏡美、真琴、目を輝かせて。

 

鏡美、真琴「かわいい!」

 

夢見「ね、いいでしょ?やろっ!(満面の笑顔で)」

 

鏡美と真琴。

 

鏡美「うん!(笑顔で)」
真琴「いいよ(笑顔で)」
夢見「ありがと!(笑顔で)あ、それとね……」
鏡美、真琴「?」
夢見「このゲームにのめりこみすぎるとね、ゲームの世界に入れるっていう噂があるんだよ?」
真琴「えー?(苦笑い)」
鏡美「そんなわけないでしょ……(あきれて)」

 

夢見、ゲームの画面を見ながら

 

夢見「ゲームの世界に入れたらいいのになぁ……勉強しなくていいし、テストもないし……みんな仲良しで、いじめとか絶対に起こらないんだよ?」

 

真琴、はっとしたように夢見のほうを見る。
真琴、夢見のスマホを覗き見る。気になる様子で。スマホが拡大。

 

本郷駅を降りた直後の場所。5時半ごろ。まだ明るい。夕焼けがとても明るい。空がオレンジ。
鏡美だけは地下道から帰るので、そこで別れる。鏡美と真琴・夢見は少し距離がある状態。
夢見、鏡美に向かって、少し大きな声でいう。

 

夢見「帰ったらログインしてね!ばいばーい!」

 

鏡美、夢見、真琴、手を振って別れる。

 

午後7時、真琴の家。真っ暗。
外は真っ暗。真琴の自室。真琴の自室は2階。
真琴の机にはパソコンのほか、学校で使うノートや教科書が開いたままにしてある。
真琴の机のパソコンはついていて、ファランクスのログイン画面になっている。
真琴、夢見に電話をかけて、夢見が電話に出たところ。

 

真琴「あ、夢見ちゃん?今ね、ファランクスの最初の画面なんだけど」
夢見「来てくれたんだね?ありがとう!」
真琴「鏡美ちゃんも来てるの?」
夢見「まだだよ。とりあえず、そのままゲームをスタートして」
真琴「うん」

 

パソコンの画面になる。
実名(姓名それぞれ)と学校名あるいは勤務先を入れる欄がある。「名前と学校名または勤務先を入れてね」と書いてある。

 

真琴「これ、本名をそのまま入れればいいの?」
夢見「うん」

 

「水野」「真琴」「若狭女子高校」と入力し、「次へ」をクリック。
真琴のデフォルメキャラクター(アバター)が生成される。名前はそのままで「真琴」
アバターが右に表示されていて、左には「能力値を入れてください」と書いてある。
能力値には「知力」「身体能力」「魅力」の3項目がある。各項目の満点は10点で、使えるポイントが15点と書いてある。

 

真琴「能力値ってなに?」
夢見「自分のキャラクターの能力だよ。頭のよさとか魅力とか、決められるんだよ。それぞれ10点満点で、最初は15点分を振り分けられるんだよ」
真琴「うーん……どうしたらいいの?」
夢見「適当に入れてもかまわないよ。全部5点でいいんじゃない?」

 

能力値に全部5と入力する。

 

真琴「私、こんなに頭よくないよ。運動もできないし、魅力も……」
夢見「ゲームの中では何でもできるんだよ。そんなに深く考えることじゃないって!」
真琴「そうなんだ」

 

「次へ」をクリックすると、通行証を選ぶ画面になる。

 

真琴「通行証?」
夢見「よくわからないけど、ファランクスで遊ぶには通行証っていうのが必要なんだって。好きなの選んで」
真琴「どれでもいいの?」
夢見「見た目が違うだけで、効果は同じだよ」
真琴「そっか、じゃあ……」

 

花の髪飾りを選ぶ。一度アップして表示され、「これでいいですか?」と表示される。「OK」をクリックすると、アバターに通行証が髪飾りの形で追加される。
画面が若狭女子高校の玄関になる。
画面右側に、上から今日の日付とログイン者名、現在位置、移動先の選択肢が表示されている。
今日の日付は7月3日で、ログイン者名は「水野 真琴」「河南 夢見」と書いてある欄があり、それぞれに「ログイン中」と表示されている。またログイン名の横に「詳細」の欄が用意されている。
現在位置は「玄関」、移動先には、「↓外へ出る」「←美術室前」「→階段を上がる」。ゲームの中の天候は晴れ。

 

夢見「それで最初の設定は終わりだよ」
真琴「これ、いま学校にいるの?私たちの学校の玄関?」
夢見「そうだよ。ゲームを始めたらいつも学校の玄関から始まるよ」
真琴「ふーん、今から何したらいいのかな?」
夢見「何してもいいんだけど……そのへん適当に歩いてみたら?」
真琴「うん、わかった」
夢見「それじゃ切るね。それと、右上の私の名前の詳細ボタンをクリックすると、私がどこにいるかわかるからね」
真琴「ありがとう。じゃあひとまず切るね」

 

真琴、電話を切る。パソコン画面が終わり、真琴が電話を切る場面を表示。
再びパソコンの画面を表示。

 

真琴「えっと……詳細ってこれかな?」

 

カーソルを夢見の名前の「詳細」へ持っていき、クリックすると、夢見の状態が画面に追加画面の形で表示される。
夢見の欄には、「名前 河南夢見」「学校 若狭女子高校」「ログイン状況 ログイン中」「現在位置 体育館」と表示されている。

 

真琴「ふーん」

 

パソコン画面、夢見の詳細欄を消し、移動先を選ぶ画面に。移動先は「↓外へ出る」「←美術室前」「→階段を上がる」がある。
少し迷って、移動先の「→階段を上がる」を選択。
画面がフェードして静止画が入れ替わる。アドベンチャーゲームのような仕様になっている。
画面がパソコン教室の前になる。移動先は「↓階段を下りる」「←パソコン教室」「↑図書室前」
真琴の顔を表示。

 

真琴「ほんとに学校そのままなんだ(驚いて)。パソコン教室には何があるんだろ?」

 

パソコン画面を表示。移動先で「パソコン教室」を選択。
画面がパソコン教室に。ここには「ゲームコミュニティ」がある。画面左に「ゲームコミュニティ」と書いてあり、その下にコミュニティの概要と、投稿されたトピックが更新の新しい順に並んでいる。
コミュニティの概要の欄には、「管理人 芽衣」「メンバー数 4人」「公開レベル 全国に公開」
説明欄には「ゲームが好きな人が集まるコミュニティです!若狭女子高校のパソコン教室で活動してます!他校の方大歓迎!!」と書いてある。

 

真琴「これがコミュニティ?」

 

画面がアップで概要→説明欄と移動。
以下、チャットの文章は声ではなく文章として表示。

 

チャット:芽衣「こんばんは、真琴さん」

 

真琴の顔を表示。

 

真琴「わ、人いるんだ(驚く)。え、えっと……」

 

真琴、キーボードを打つ。そんなに早くない。
パソコン画面。最大3行表示できるチャット。

 

チャット:真琴「こんばんは。えっと……芽衣さん」
チャット・芽衣「若狭女子の子だよね?ここはゲームのコミュニティだよ。4人しかいないけどね」
チャット:真琴「いまほかにも誰かいるんですか?」
チャット:芽衣「4人ともいるよ」

 

翔一、優奈、大樹の3人はほぼ同時に文章が出る。

 

チャット:翔一「こんばんわー」
チャット:優奈「ゆうなだよー」
チャット:大樹「よろしく」

 

チャット:真琴「水野真琴です。よろしくお願いします」
チャット:芽衣「いまファランクスのゲームやってるんだけどさ、見てみる?」

 

パソコン画面にゲームの画面が中央あたりに表示される。
ボンバーキングのようなゲーム。ただし登場キャラクターがかわいい動物。
舞台が南極で、主人公がペンギン。十字キーで動き回り、ボタンで氷を投げつけて敵を倒して先へ進む。投げている間は硬直していて動けない。
敵はアザラシ、ペンギン、白熊、シャチ、クジラ、アホウドリなど。
真琴の顔。

 

真琴「あ、このゲーム……やったことある」

 

パソコン画面。しばらくゲームが進んで、敵にやられてしまう。

 

チャット:翔一「あー、ちくしょー、またやられた」
チャット:優奈「ぜんぜんだめじゃん」
チャット:芽衣「誰もクリアできないねぇ……」

 

真琴の顔。キーボードを打つ。
パソコン画面。

 

チャット:真琴「あの、私はできないんですか?ゲーム」
チャット:芽衣「ええっ?できるけど、難しいよこれ?」
チャット:真琴「やったことあるんです、このゲーム」
チャット:翔一「マジで?」
チャット:大樹「おお!」
チャット:芽衣「それは期待できるかも……ちょっと待って」

 

画面に「ゲーム開始」のボタンが追加される。

 

チャット:芽衣「これでやってみて!」

 

真琴の顔。キーボードを打つ。
パソコン画面。ゲームをクリアする。「GAME CLEAR」の表示が出る。
以下の文章はほぼ同時に出る。

 

チャット:大樹「おおー!」
チャット:翔一「マジか!?」
チャット:優奈「やるじゃん!」

 

少し遅れて。

 

チャット:芽衣「すごーい!ありがと!みんなクリアできなくて困ってたんだよ!」
チャット:真琴「たまたまですよ。やったことあったから」
チャット:芽衣「それでもすごいよー!」

 

真琴、照れてる。

 

チャット:優奈「ねえ真琴さん、ここのコミュニティに入ってよ!正式に!」
チャット:大樹「そうですよ。これからも手伝ってください!」

 

真琴、ちょっと戸惑う表情。
突然パソコンから効果音。パソコン画面。右上に「川崎鏡美さんがログインしました」と出る。真琴、少し驚くが、そのままキーボードを打つ。
パソコン画面。

 

チャット:真琴「ちょっと考えさせてください。ファランクスも今日始めたところなんです」
チャット:芽衣「そっかー、いいよ。でもまた来てね!絶対だよ!」
チャット:真琴「はい、それでは失礼します」

 

パソコン画面、パソコン教室から移動しようとすると。

 

チャット:翔一「天才の真琴さん、待ってますよ!」

 

真琴、表情が驚きと喜びになる。
パソコン画面。パソコン教室から出て、ログアウトのボタンを押す。
ログアウトのボタンを押すと、「ログアウトしています」という表示がしばらく表示され、突然画面が真っ暗になる。
パソコン画面に「ねえ、こっちの世界に住みたい?」と出る。
真琴、疑問に思う表情。
パソコン画面に「こっちにはあなたをいじめる人はいないよ」と出る。
真琴、驚いて不審に思う表情。
真琴の視点で、画面がゆがみ、周囲全体がゆがんで見える。
真琴、驚いて恐怖する。うつむいて、両手でおでこを押さえる。しばらくして手をどけて顔を上げる。周囲をきょろきょろ見ながら

 

真琴「なに、今の!?」

 

真琴、目をぱちぱちさせて、落ち着いて

 

真琴「……疲れてるのかな」

 

真琴、ベッドの中。眠れずにいる。考えている。
「天才の真琴さん、待ってますよ!」という文字が、真琴の頭の中で繰り返される。
「また来てね!絶対だよ!」の文字が真琴の頭の中で繰り返される。
真琴、寝返りを打って、ぼーっと考えている。

 

真夜中の学校、3年1組の教室、満月で月明かりで少し光がある。時計が1時を指している。屋外は電灯などは一切ついていない。
真琴、自分の席の椅子で座ったまま寝ており、目が覚める。月明かりが顔を照らしている。真琴の席は一番窓側の前から2番目。
ここから完全一人称。
驚いてばっと起き上がり、あたりを見回す。

 

真琴「……え?学校?なんで?私……」

 

真琴、立ち上がってゆっくりあたりを見回す。

 

真琴「私、自分の部屋で……それから……はっ!」

 

真琴、窓に映っている自分の顔を見て、頭にファランクスの通行証があることを確認する。
真琴、驚いて窓に映っている自分を見ながら自分の髪を触り、ファランクスの通行証を触り、取り外そうと試みるが、外れない。髪が引っ張られるだけ。

 

真琴「痛っ!なんで?外れない」

 

真琴、もう一度鏡を見る。

 

真琴「これって……ファランクスの通行証?じゃあここは……ゲームの世界?まさか!?」

 

真琴、自分の手をまじまじと見る。

 

真琴「夢じゃない……」

 

真琴、教室の廊下側のドアのほうへ歩き出す。教室の電灯をつけようと試みるが、つかない。
真琴、表情でがっかりする。

 

真琴「どうしよう……」

 

真琴、おずおずとドアを開けて廊下に出る。廊下は非常に暗い。
廊下の窓から校舎の内側を見ると、パソコン教室に明かりがついている。ほかは真っ暗。
よく見ると、教室の中の1台のパソコンの画面がついている。
真琴、疑問に思う表情。
真琴、3階の廊下を見回すが、誰もいない。
3階の対角線側の窓を見てみると、3-5と3-8の教室の中央あたり(3年7組あたりの教室前の廊下)に、人影が見える。が、すぐに梁に隠れてしまう。以降、見えない。
真琴、怪訝な表情。
3-5のあたりから足音が聞こえてくる。徐々に足音が大きくなり、近づいてくるのがわかる。
真琴、不安な表情で、少し後ずさりする。
その人物が近づいてくる。柱の影から出た瞬間、光が当たって顔が見える。夢見だとわかる(ただし夢見本人ではなく、ファランクスの世界の夢見のキャラクターである)。夢見、微笑している。
真琴、喜んで夢見に話しかける。早口で、つまりながら

 

真琴「夢見ちゃん!あの、あの……誰もいないの!私、怖くて怖くて……ここ、ファランクスの世界なの?」

 

ファランクスの夢見、少しも表情を変えずに、穏やかな表情で

 

ファランクスの夢見「そうだよ」

 

真琴、夢見の不自然な表情に疑問を思う。「何か変だな」と思う。少し怖い。

 

真琴「ほんとにゲームの世界に入っちゃったの?どうやったら出られるの?」

 

ファランクスの夢見、少しも表情を変えない不自然なくらい一定の穏やかな口調。
真琴は必死な様子。

 

ファランクスの夢見「何も」
真琴「え?」
ファランクスの夢見「何もしなくていいよ。時間がたつと出られるから」
真琴「ほ、ほんと?」
ファランクスの夢見「うん」

 

夢見、穏やかに微笑している。
真琴、夢見は何かおかしいと思う。

 

真琴「夢見ちゃんは……怖くないの?」
ファランクスの夢見「全然、平気だよ」

 

しばらくそのまま。
真琴、動揺している。
真琴、思い切って話す。

 

真琴「あ、あの……」

 

真琴、しゃべろうと思ったがファランクスの夢見がさえぎって質問する。

 

ファランクスの夢見「もう一人、私を見なかった?」

 

真琴、さっぱり意味がわからない顔。

 

真琴「もう一人?どういう意味なの?」
ファランクスの夢見「ゲームを始めたときに自分そっくりのキャラクターを作ったでしょ?このファランクスの世界にはね、そいつがいるの」
真琴「もう一人……夢見ちゃんがいる?」
夢見「うん。真琴ちゃんもね」
真琴「え?」

 

真琴、驚いて固まっている。
ファランクスの夢見、表情は変えない。

 

ファランクスの夢見「そいつはね、私になりすまして現実世界に出ようとしているの。見つけたら注意してね?ひどい目に合わされるかもしれないよ?」
真琴「なんのこと?現実世界に……出る?」
ファランクスの夢見「あのね、もう一人の自分が現実世界に出ちゃったら、自分は戻れなくなるんだよ。だからそいつを現実世界に行かせないようにしないと」
真琴「そんな……」
ファランクスの夢見「だから、もう一人の私を見つけたら教えてね。真琴ちゃんも、もう一人の自分を見つけたら……ね?」
真琴「見つけてどうするの?私はどうしたらいいの?」
ファランクスの夢見「ふふふ……」

 

真琴、不安な表情で、立ったまま呆然としている。
真琴、急に気がついたように、夢見の全身をじろじろ見る。
真琴、夢見の体に通行証らしいものがどこにもないことに気づき、自分の髪の通行証を触って、自分にはあることを確かめる。

 

ファランクスの夢見「じゃあ私は行くね」

 

ファランクスの夢見、ひるがえって3-5のほうの階段へ行こうとする。

 

真琴「夢見ちゃん、あの……」

 

ファランクスの夢見、顔だけ振り向く。疑問の表情。
真琴、自分の通行証を触って

 

真琴「この通行証、髪から外れないの。夢見ちゃん、どうやって取ったの?」

 

ファランクスの夢見、はっと気づいて、動揺して

 

ファランクスの夢見「そ、そのうち取れるから!それじゃ行くね!」

 

ファランクスの夢見、走って行ってしまう。3-5教室前の階段を下りる。足音が徐々に小さくなり、次第に聞こえなくなっていく。
真琴、不安な表情。
真琴、しばらく呆然としていると、ファランクスの夢見の行った方角から足音が聞こえてくる。真琴、それに気づいてそちらを見る。
すぐにこちらへは来ず、うろうろしている足音。
真琴、疑問に思う表情。足音のほうへ向かって

 

真琴「夢見ちゃん?」

 

足音が一瞬止む。

 

真琴「夢見ちゃん?どうしたの?」

 

足音が早足になる。
真琴、怪訝な表情に変わり、

 

真琴「!!……夢見ちゃんじゃない!」

 

足音へ向かって

 

真琴「誰?誰なの?」

 

返答はなく、足音、走って近づいてくる。
真琴、恐怖の表情になり、少し後ずさりしてから音楽室のほうへ走り出す。
ずっと走る足音がし続けている。真琴、足音の方向へ向かって叫ぶ。

 

真琴「なんで追いかけてくるの!?」

 

真琴、音楽室前の階段を下り、2階に出る。階段の陰に隠れて息を潜めて階段上を見る。

 

真琴「はあ、はあ……あれって、まさか……(独り言、警戒してささやくように)」

 

足音は上の階からしている。

 

真琴「どこか、隠れるところ!」

 

真琴、茶道室の木製のドアを開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。力づくでこじ開けようとするが、開かない。
足音は階段を下り始めている。
真琴、階段のほうを一度振り向いて、理科室→図書館と振り向き、図書館の方角へ走る。
真琴、図書館のドアを開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。さっきよりも力みすぎで、力づくで開けようとするが、開かない。
真琴、左を見て、パソコン教室のドアが開いているのに気づく(茶道室側のドアは開いているが、もう一つのドアは閉まっている)。一度階段のほうを振り返ると、足音が近づいており、階段のあたりから人影が見えており、誰かが下りてきているのが見える。
真琴、走ってパソコン教室に入り、ドアを閉めずに、急いで教室の一番奥の机の影に隠れる。
足音が近づいてくる。真琴、座って恐怖でがたがた震えている。呼吸が速い。
パソコン教室の前で足音が止まる。何者かが教室に入ってくるのが、その影でわかる。真琴、恐怖で冷や汗が出て、目をつむって歯を食いしばる。
影が動き、教室の電灯のスイッチのあるところへ動き、その者(ファランクスの真琴)が電灯をつけて教室が明るくなる。真琴、驚いて目を開ける。

 

ファランクスの真琴「そこにいるのはわかってるのよ。出てきなさい」

 

真琴、びくっとなり、恐る恐る立ち上がって顔を出す。
ファランクスの真琴は、普通の表情だが、気が強そう。真琴、ファランクスの真琴を見て非常に驚く。
ここで完全一人称終わり。

 

真琴「あなたは……私?え?」
ファランクスの真琴「なに驚いてるの?あなたが私を作ったんでしょう?」
真琴「あ……」

 

ファランクスの真琴、優しい表情になり

 

ファランクスの真琴「私はね、あなたのその通行証を受け取りに来たの」
真琴「通行証?」

 

通行証を拡大。

 

ファランクスの真琴「あなたがファランクスの人間になるために必要なの」

 

真琴、理解できない表情。

 

ファランクスの真琴「ここに来るのはみんな、現実世界で生きるのが嫌になった人たちなの。あなたもそうでしょう?だから、私があなたの世界に住み、あなたが私の世界に住むのよ」
真琴「そんなこと……(困った顔)」
ファランクスの真琴「ファランクスの世界にはいじめっ子はいないわ」

 

真琴、驚いて

 

真琴「なんでそのことを……」
ファランクスの真琴「私はあなたのコピーなんだから、あなたのことはなんでも知ってるわ」

 

真琴、知られたくない秘密を知られていたことを知り、目をそらす。

 

ファランクスの真琴「ファランクスの人たちはみんな優しい人たちで、絶対に争いごとなんか起こさないわ」
真琴「そんなこと、突然いわれても……(困った顔で)」
ファランクスの真琴「死にたいくらいつらいんでしょう?死んじゃうくらいならこっちに来たほうがいいと思うけど?」

 

真琴、うつむいて考えている。

 

ファランクスの真琴「その通行証を渡してちょうだい。そうすればあなたがファランクスの人間になれるから」
真琴「通行証……あっ!」

 

真琴、ファランクスの夢見が通行証をつけていなかったことを思い出す。
ファランクスの真琴の全身を見ると、どこにも通行証らしきものがない。

 

真琴「あれ、夢見ちゃんじゃなかったんだ……(小声で)」
ファランクスの真琴「なに?」

 

真琴、顔を上げて

 

真琴「あ、でも、あなたも私たちの世界でいじめられて、つらいことになるんじゃ……」

 

ファランクスの真琴、自信ありげに胸を張って

 

ファランクスの真琴「私がいじめられると思う?」

 

真琴、劣等感を感じて落ち込む。

 

ファランクスの真琴「ねえ、いい話でしょ?」

 

真琴、うつむいてしばらく考えている。
真琴、ゆっくりと顔を上げて

 

真琴「私、ファランクスの人間にはなれない。元の世界に帰りたい」

 

ファランクスの真琴、驚きすぎて固まる。

 

ファランクスの真琴「え?」

 

ファランクスの真琴、わざとらしく優しく

 

ファランクスの真琴「いじめっ子もいないのよ?何が不満なの?」
真琴「あっちの世界には、私の知ってる鏡美ちゃんも夢見ちゃんもいないでしょう?」

 

ファランクスの真琴、驚いた表情で、しばらく硬直する。

 

真琴「こっちの世界は嫌、戻りたい」

 

ファランクスの真琴、無理に笑顔を作っている表情。無理して優しい口調で

 

ファランクスの真琴「ねえ、何が不満なの?元の世界に戻ったら、またいじめられるわ?今度はもっとひどい目に合わされるかもしれないのに、いいの?」

 

真琴、黙っている。
ファランクスの真琴、怒った表情で真琴に詰め寄ってくる。
真琴、それを見て恐怖し、後ずさる。
ファランクスの真琴、口調やトーンも怒りを含んだものになり、

 

ファランクスの真琴「戻りたいって私の聞き間違いよね」

 

真琴、目をつむって首を横に振る。振った後に目を開ける。
ファランクスの真琴、さらに怒りの表情になり、真琴に近づく。
真琴、不安な表情で後ずさる。ファランクスの真琴が近づいてくる。
真琴、壁に追い詰められる。ファランクスの真琴、真琴の鎖骨あたりを右手で押し付けて、真琴を壁に押し付ける。

 

ファランクスの真琴「友達と別れるのが嫌なのね?でもね、あんた本当にあの二人に友達だと思われてるの?」
真琴「え?(不安に)」
ファランクスの真琴「鏡美ちゃんだっけ?あの子、あんたを助けようとしていじめに巻き込まれそうにならなかった?鏡美ちゃんにとって、本当はあんた迷惑な存在なんじゃないの?」
真琴「そんなことは……」
ファランクスの真琴「何をやってもダメなあんたが、何をやっても優秀なあの子と、釣り合ってないでしょうが」

 

真琴の顔が急に青ざめ、自信がなくなり力が抜ける。
ファランクスの真琴、ニヤリと笑う。喜ぶ。

 

ファランクスの真琴「あの子はいい子だから、しかたなくあんたに付き合ってくれるけどね……本当は嫌われてるのよ、あんたは」

 

真琴、何も言い返せずにうつむく。

 

ファランクスの真琴「あんたみたいなみじめな子は死んだほうがいいわ。あんたは友達を作るべきじゃないのよ」

 

真琴、うつむいて目を開けたまま涙を流す。

 

真琴「うっ……ひくっ、ううっ!」

 

ファランクスの真琴、さっきよりも少し優しい調子で

 

ファランクスの真琴「ファランクスの世界に来れば楽になるわ。そんな苦しいことはもう忘れなさい」

 

ファランクスの真琴、真琴の髪から通行証を取り上げようとする。
突然パソコン教室のドアが勢いよく開き、何者かが突っ込んできてファランクスの真琴が突き飛ばされる。真琴、正座崩しで座り込んで、驚いて硬直する。
ファランクスの真琴、しばらく痛がった後、振り向く。鏡美がモップを両手で持って、刀を構えるようにして、真琴とファランクスの真琴の間に立ちはだかっている。鏡美はファランクスの真琴のほうを向いている。鏡美、非常に怒った表情。
夢見が真琴のそばで真琴をかばうようにして寄り添っている。半分ひざ立ち。
鏡美と夢見は通行証をつけている。
真琴、呆然として硬直したまま。

 

夢見「真琴ちゃん!大丈夫?」

 

ファランクスの真琴「川崎……鏡美?」

 

ファランクスの真琴、立ち上がって

 

ファランクスの真琴「突き飛ばすなんてひどいわ」

 

ファランクスの真琴、無理に笑顔を作って、鏡美に近づこうとする。
鏡美、モップを頭上に振りかざして

 

鏡美「近づいたらぶっ飛ばすよ!」

 

ファランクスの真琴、足を止めて、なだめるように

 

ファランクスの真琴「勘違いしないでよ?私はこの子をいじめてるんじゃないの。この子のことを心配してやってるのよ?」

 

鏡美、そのまま。

 

ファランクスの真琴「だからね、仲良くしましょ、鏡美ちゃん?」

 

ファランクスの真琴、鏡美に近づこうとする。
鏡美、怒ったまま激しい調子で

 

鏡美「下の名前で呼ばないで!馴れ馴れしいわ!」

 

ファランクスの真琴、怒りが表情に出る。しかしすぐに冷静になり、鏡美に近づかずに、横歩きで教室のドアへ向かいながら、

 

ファランクスの真琴「その子はね、どうせ現実世界では生きていけないのよ」

 

ファランクスの真琴、真琴のほうを向いて

 

ファランクスの真琴「代わってほしかったらいつでもいってね」

 

ファランクスの真琴、教室から出て行く。
周囲が突然変化し、3人とも真琴の部屋にいる。3人、周囲を見回して驚く。
3人とも、服装はそのまま。鏡美はモップを持っていない。
早朝6時くらい。晴れ。もう外は明るい。

 

鏡美「……戻ってきた?」
夢見「あ、通行証がなくなってる!」

 

真琴と鏡美、自分の髪を触って通行証がないことを確かめる。

 

鏡美「夢じゃなかったんだ。ゲームの世界に吸い込まれるなんて、信じられないけど……」

 

夢見、落ち込んで

 

夢見「ごめんね、私がゲームに誘ったせいで、みんなを危険な目にあわせちゃったみたい」
鏡美「夢見は悪くないよ(慰めるように)。真琴は、大丈夫?」

 

真琴、はっと気がついたように。

 

真琴「鏡美ちゃん、夢見ちゃん……助けてくれてありがとう。怖かった」
鏡美「もう平気だよ」

 

真琴、少しうつむいたまま

 

真琴「あのね、私……少しだけ、あっちの世界に行きたいと思ったの。私、鏡美ちゃんと夢見ちゃんの邪魔になっているかもしれないと思って。でも……」

 

鏡美、夢見、疑問の表情で真琴のほうを見る。

 

真琴「あっちの世界には鏡美ちゃんも夢見ちゃんもいないから」

 

鏡美、寂しそうに

 

鏡美「邪魔とか、そんなこと思ってないから!私、真琴がいなくなるなんて絶対いやだよ!」

 

夢見、笑顔で

 

夢見「ずっといっしょだよ?真琴ちゃん」

 

真琴、安心した表情で、笑顔に戻る。

 

/////////////
終わり

お知らせ

次回の「関西創作交流会(主に自分の作品を見せながら雑談する会)」は9月9日(土)寝屋川市で行います。参加費無料なのでぜひご参加ください。

トップページ サイトマップ サイト内検索 管理人プロフィール 関西創作系オフ会