進介の魔法のつぼ

僕の名前は進介、プラモデルが大好きな小学4年生。
今ぼくのクラスでは「ガンダムシード(ガンダムSEED)」のプラモが流行ってる。
ぼくはイージスガンダムとかバスターガンダムとか、人気のプラモはたいてい持ってるんだけど……
「3強」って呼ばれてる3つのプラモは持ってないんだ。
その3強っていうのは、「フリーダム・ガンダム」「ジャスティス・ガンダム」「プロヴィデンス・ガンダム」の三つ。
どこのプラモのお店に行っても売り切れてて、予約してから手に入るまでに2ヶ月はかかるってお店の人が言うんだ。
ああ、ほしいなぁ……特にプロヴィデンスガンダム、あれはどうしてもほしいよ。
でも僕の同級生の友達の中には持ってる子がいるんだよね。
フリーダムは「ユウタ(裕太)」が持ってる。
ジャスティスは「トシ(敏彦)」が持ってる。
そしてプロヴィデンスは……「アキラくん(晶)」が持ってるんだ。
さすがに三つともそろえてる子はいないんだけど、でもほんっと、うらやましいよ!

 

今日も学校の授業が終わって、いまは家に帰るところ。
いつもはユウタと一緒に帰るんだけど、ユウタが日直で居残りなので今日はぼく一人。
帰り道にゴミ捨て場があって、ちょっとした遊び場になってるんだよね。
いつもはユウタとここで鬼ごっことかかくれんぼとかするんだけど、今日は一人だし道草せずに家に帰ろうかな?
……でもちょっと寄っていこう。
たまに面白いマンガが捨てられていたりするんだよね。
何かおもしろいものが落ちてないかな?
プロヴィデンスのプラモが捨てられていたり……しないよね。

 

ぼくがゴミの山に差し掛かかろうとしたとき、ゴミの中に茶色の、かなり大きなつぼがあるのが見えた。

 

進介「なんだ、これ?」

 

かなり古いものみたいだけど、どこも壊れていないみたいだし、まだ使えそう。
つぼをひっくり返してみると、底にこんな文字が彫ってある。

 

「こわれたものをこのつぼに入れると、もとに戻ります」

 

どういう意味だろ?
こわれたものって、たとえば壊れたプラモを入れると直っちゃうってことかな?
なんだかおもしろそうだ!
ぼくはこのつぼを家に持って帰ることにした。

 

進介「ただいま」
進介の母「おかえり、しんちゃん」

 

家に帰ると、ママはぼくの持っているつぼを見て怪しんでいる。
そしてママはため息をついてこう言った。

 

進介の母「あきれた、またおかしなもの拾ってきて……ちゃんと部屋は片付けるのよ」
進介「はーい」

 

適当に返事をして、ぼくは自分の部屋に戻った。
さっそくこのつぼの力を試してみるため、ずっと前に腕が折れてしまった「ターンエー・ガンダム」のプラモをつぼの中に入れてみた。
つぼの入り口の穴はけっこう大きくて、学校で使っている教科書くらいなら曲げなくても入るくらいだ。
ガンダムのプラモくらいなら余裕で入る。
それでつぼの中にターンエーを入れてみた。

 

……

 

「もういいかな?」

 

1分くらいしてターンエーをつぼから出してみたけど、何も変わってない。
その後1時間くらい入れておいたんだけど、やっぱり何も変わってない。
ターンエーの腕は折れたままだ。

 

進介「魔法なんて……あるわけないか」

 

つまらなくなったので、ぼくは学校の宿題をすることにした。

 

次の日、朝起きてぼくはターンエー・ガンダムのプラモをつぼの中に入れたままにしておいたのを思い出した。
それでつぼをひっくり返してターンエーを取り出すと……

 

進介「え……!?う、腕がある!」

 

折れたはずのターンエーの腕が元に戻ってる!

 

進介「すごい!これ、本当に魔法のつぼなんだ!」

 

つぼに壊れたものを入れてから、元に戻るまでにちょっと時間がかかるみたいだ。
12時間くらいかな?
そういえば、ユウタの持ってたインパルス・ガンダムの翼が折れてた。
このつぼを使えばユウタのインパルスも直せるに違いない。

 

進介「よーし、今日学校から帰ったらユウタのインパルスをこれで直してあげよう!」

 

そして学校が終わって、ぼくは家に帰ってすぐにユウタの家に行った。
ユウタの家はぼくの家のすぐ近くで、歩いても1分かからないところにある。

 

裕太「しんちゃん、いらっしゃい」

 

ユウタの部屋にはぼくの部屋と同じで、プラモがいっぱい部屋に飾ってある。
でもプラモの数はぼくよりはずっと少ないけど。
その中にはユウタの自慢のプラモであるフリーダム・ガンダムとインパルス・ガンダムも飾ってある。
インパルスには翼がついていて、本当は左右に伸びているんだけど、残念なことにユウタのそれは片方が折れているんだ。
ぼくはすぐに切り出した。

 

進介「ねえユウタ、そのインパルスをぼくに一日貸しなよ。その折れた翼を直してあげるよ」
裕太「ええっ!?直すって……それはうれしいけど、どうやって直すの?接着剤でくっつけるの?」
進介「そ、それはね……」

 

なんとなく、あのつぼで直すっていうのは言いたくない。
魔法なんて信じてもらえないってのもあるんだけど、なんとなくズルしてるみたいで……
ぼくは何もがんばらなくてもいいし、難しくもないしお金もかからないし。

 

裕太「しんちゃん、この翼の折れた部分はもうなくしちゃったよ。だから接着剤でくっつけるのは無理だよ?」
進介「そんなんじゃないよ。とにかく一日貸してみなよ。本当に直るんだから!」
裕太「ほんとかなぁ……」

 

なんだか納得いかない様子だったけど、ユウタはインパルスをぼくに貸してくれた。
ぼくはさっそく家に帰り、ユウタのインパルスをつぼに入れた。
そして次の日、朝目覚めるとユウタのインパルスの翼は新品と同じように左右に伸びていた。

 

進介「やった!やっぱりこのつぼは魔法のつぼなんだ!へへへ、ユウタきっと喜ぶぞ!」

 

学校が終わるとすぐ、ぼくはユウタの家に行った。
ぼくがユウタに直したインパルスを渡すと、ユウタはとても驚いた。

 

裕太「うわぁ……すごい。しんちゃんって、プラモ直すの得意なんだね!」
進介「へへっ、まあね」
裕太「ねえ、これどうやって直したの?」
進介「それは、ひみつ」
裕太「ひみつ?……まあいいや。ありがとう、しんちゃん」

 

するとユウタは棚に飾ってあるフリーダム・ガンダムのプラモをぼくに差し出した。

 

裕太「しんちゃん、お礼にこれあげる」
進介「これって……フリーダム?」

 

これ、ぼくにくれるっていうの?

 

進介「ちょっと……フリーダムってインパルスより強いんだぜ?」
裕太「それは知ってるけどさ、ぼくフリーダムよりインパルスのほうが好きだし、しんちゃんフリーダムほしいって言ってたでしょ?」
進介「ほ、ほんとにいいの?あとでなしってのはダメだよ?」
裕太「うん、いいよ。もらってよ。インパルス直してくれたお礼だよ」

 

そういうとユウタはぼくにフリーダムを手渡した。

 

ぼくは家に帰るとすぐ、フリーダムをほかのプラモと同じように棚に飾った。
どこのプラモのお店に行っても手に入らないフリーダムが、あっさり手に入ってしまった。

 

進介「信じられないなぁ……前からほしいと思ってたフリーダムが手に入っちゃうなんて」

 

フリーダムはぼくのほかのプラモと比べても、ひときわ輝いているように見える。

 

進介「何度見てもほんとにかっこいいよ、フリーダム」

 

ジャスティスとプロヴィデンスもいっしょにここに並べられたら……

 

進介「あー、ジャスティスとプロヴィデンス、何とか手に入らないかなぁ……どうしてもほしい……いますぐほしい!」

 

……

 

そうだ。

 

進介「いいこと考えた……」

 

ぼくは思いついたアイデアを実行するため、さっそくトシの家に遊びに行った。
トシは気弱なヤツで、いつもおどおどしてる。
こいつなら大丈夫だろう。

 

敏彦「進介……くん?」
進介「トシ、遊ぼ!部屋、入っていい?」
敏彦「う、うん……どうぞ……」

 

トシの部屋に入る。
ぼくほどじゃないけど、やはり棚にガンダムシリーズのプラモがたくさん飾ってある。
その中にほかのプラモに囲まれるようにして、ひときわ目立つプラモがある。
そこにはジャスティス・ガンダムが大事そうに置かれている。
ぼくはそれらのプラモを指差して言った。

 

進介「なあトシ、この中に壊れてるヤツある?もし壊れてるのがあったら、ぼくが直してやるよ」
敏彦「え?壊れてるプラモ?……ないけど」
進介「……え?」
敏彦「??」

 

ふつう、プラモ集めてたら一つくらいは腕が取れてたり、羽が折れてたりするものなんだけど……

 

進介「壊れてなくてもいいんだよ。部品をなくしたとか、そういうのでもいいんだ」
敏彦「そういうのもないよ」

 

……

 

しまった。計算違いだ。
どうしようか……

 

敏彦「あ、ちょっとトイレ行ってくるね」

 

敏彦はそういうと部屋を出て行った。
このままじゃ何もせずに終わってしまう。

 

進介「……そうだ。いいこと思いついた」

 

ぼくは棚に飾ってあるプラモの中に、ストライク・ガンダムが一つあるのを見つけた。

 

進介「……こうするしかないか」

 

ぼくはストライクを手に取ると、背中の噴射口の下につけられている小さな翼を無理やり折った。
その破片はポケットの中に入れ、ストライクは元の場所に戻した。
そしてトシが部屋に戻ってきた。
ぼくはストライクを手に取って言った。

 

進介「なあ、このストライク、後ろの羽が折れてるぞ?」
敏彦「ええっ?うそぉ!?」

 

ぼくがストライクをトシに見せると、トシは信じられないといった表情でストライクを見ている。

 

敏彦「おっかしいなぁ……ここ、折れてなんかないはずなのに……」
進介「なあ、これ一日ぼくに貸しなよ!ここんとこ直してやるよ」
敏彦「えーっ!?いいよ、自分でやるから」

 

なんかこいつ、自分のプラモを人に触られるのが嫌みたいだ。

 

進介「直すって、どうやるんだよ。接着剤でくっつけても折れ目が目立つぞ?」
敏彦「それは……」
進介「ぼくだったら折れ目がまったくわからないくらいうまくくっつけてやるよ」
敏彦「うーん……」
進介「それにさ、ぼくのパパはおもちゃ屋さんをやってるんだよ?接着剤が無理ならここの部品だけ取り寄せてもらうことだってできるんだよ?」
敏彦「ほ、ほんとう?」

 

うそだけどね。
でもあの魔法のつぼで直せば、そう信じるようになるさ。

 

敏彦「うん、わかった。じゃあ頼むよ」

 

ぼくはトシからストライクを受け取り、家に帰った。
そしていつものように、ストライクをつぼの中に入れて一晩おいておくと、折れた翼は元に戻っていた。
その日学校が終わって家に帰り、ぼくはストライクを持ってトシの家に行った。

 

敏彦「ほんとだ、すごくきれいに直ってる。ありがとう!」
進介「おっと、まだだよ!」

 

トシがストライクを手に取ろうとしたけど、ぼくは渡さない。

 

進介「なあトシ、せっかくぼくが苦労して直してやったのに、タダで受け取ろうっての?」
敏彦「え……」

 

トシが不安な声を漏らす。

 

進介「パパに頼んで部品を取り寄せてもらったんだよ。なかなか手に入らなくてさ、それでも無理言ってさ」
敏彦「わ、わかったよ……この部品いくらしたの?」
進介「いやいや、お金を出せって言ってるわけじゃないんだよ」
敏彦「え?じゃあ、何?」

 

ぼくは棚に飾ってあるジャスティスを見て言った。

 

進介「そうだな……そのジャスティスと交換ってのはどう?」
敏彦「ええっ!?こ、これはダメだよ!」

 

トシはジャスティスを手に取ると、自分の背後に隠した。

 

敏彦「ねえ、ほかのプラモだったら何でもあげるよ。これはどう?」

 

トシは棚に飾ってある別のプラモを指差して言った。

 

進介「こんなどこにでも売ってるようなプラモと引き換えにする気?」
敏彦「……ダメなの?」
進介「千円のものを百円で買うようなものだな。こういうのをなんていうか知ってるか?」

 

敏彦は不安そうに首を横に振った。

 

進介「泥棒、っていうんだ」
敏彦「……」

 

敏彦はうつむいて黙ってしまう。
そろそろとどめといくか。

 

進介「さあ、早くジャスティスをよこせよ、泥棒!」
敏彦「わ、わかったよぉ……」

 

敏彦は泣きそうな顔でジャスティスを差し出した。
ぼくはジャスティスをトシから奪い取ると、そのまま家に直行した。

 

自分の部屋に戻り、ぼくはジャスティスをフリーダムの側に置いた。

 

進介「へへへ、やったね。こんなに簡単に3強のうち2つがそろっちゃうなんて」

 

こうなったら残りのプロヴィデンスも何とかして手に入れないと!
だけどプロヴィデンスも、フリーダムとジャスティスと同じでどこのお店にも売ってない。
ぼくの知ってるヤツの中でプロヴィデンスを持ってるのは……アキラくんだけだな。

 

……

 

進介「アキラくんか……」

 

ぼくはアキラくんが苦手だ。嫌いでもないけど……
アキラくんは根暗でキモいけど、すごい頭がいい。
特に算数では上級生でもかなわないんじゃないかってくらい成績がいい。
アキラくんちがどこにあるかは知ってるけど、ぼくもユウタも行ったことがないんだ。
あまりいっしょに遊ばないから。

 

進介「でもプロヴィデンスを手に入れるには、アキラくんのところに行くしかないな」

 

トシと同じやり方でアキラくんからプロヴィデンスがもらえるかな?
あまり気が乗らないけど……プロヴィデンスを手に入れるためだ。
次の日、学校が終わって家に帰ると、ぼくはアキラくんの家に向かった。

 

 

だけど……

 

 

アキラくんが出迎えてくれたときの最初の一言を聞いて、ぼくはここに来たことを心底後悔した。

 

 

晶「やあ進介くん、来ると思っていたよ。ぼくのプロヴィデンス・ガンダムがほしいんだろう?」

 

進介「……え?」

 

なんで……

 

晶「まああがりなよ」

 

ぼくは部屋に案内された。
アキラくんの部屋はきれいに片付いていて、勉強机が窓に沿って置いてある。
もう一つ、背の低い机には少ない数だけどプラモが飾ってあった。
その中にはプロヴィデンスもあった。

 

晶「聞いたよ。きみさ、裕太くんと敏彦くんからフリーダムとジャスティスを取り上げたそうじゃないか。別のプラモを直してやるかわりに」
進介「と、取り上げたわけじゃないよ!」
晶「へぇー……」

 

なんでこいつそのことを知ってるんだ!?
今日、学校でユウタとトシから聞いたのか?
いや、昨日ぼくが帰ってからトシに聞いたのかも……

 

晶「きみもぼくの壊れたプラモを直してくれるんだろう?」
進介「え?……ええ!?」

 

何がしたいんだ、こいつは?
アキラくんはプロヴィデンスを手にとって言った。

 

晶「ぼくの壊れたプラモを一つ直してくれたら、このプロヴィデンスをきみにあげるって言ってるんだよ。どうだい?」
進介「あ……ああ、そりゃ直せるけどさ、いいの?」
晶「いいって、何が?」
進介「プロヴィデンスをもらってもいいのかって聞いてるんだよ」
晶「いいよ」

 

アキラくんにとって、プロヴィデンスはあまり大事じゃないものなんだろうか?

 

進介「わかったよ。それで直してほしいプラモはどれ?」
晶「これだよ」

 

アキラくんは飾ってあるプラモから一つを手にとって、ぼくに手渡した。

 

進介「カラミティ・ガンダムだね」

 

カラミティは両肩にそれぞれ巨大なキャノン砲がついてるんだけど、その片方がなくなっていた。
キャノン砲の付け根に折れた痕がある。
ぼくはキャノン砲の付け根を指差して言った。

 

進介「ここが壊れた場所だね」
晶「ああ。折るのに苦労したよ」

 

……

 

え?
こいつ、いま何て言った?

 

進介「折るのに苦労したって……どういうこと?」
晶「ぼくのプラモの中には壊れてるものが一つもなかったんでね。だからわざと壊したんだ、それ」
進介「だから……なんで!」
晶「きみに直してもらうためにね」
進介「……」

 

ぼくに直してもらうためって?
そのためにわざわざ自分で壊す?
なんで?

 

晶「ねえ……きみさ、いったいどうやってプラモを直してるんだい?」
進介「え?……そ、それはひみつだよ」

 

急にアキラくんの目つきが変わったような気がした。

 

晶「裕太くんのインパルス、見せてもらったよ。それでちょっと不思議だったんだよね」
進介「……」
晶「折れた痕がないんだよ。接着剤でくっつけたら折れた部分がひびになって残ってるはずなんだけどね、ないんだ、それが」
進介「そ、それはさ……パパに頼んで部品を取り寄せてもらったんだよ!ぼくのパパはおもちゃ屋さんで働いてて……」
晶「うそつけよ。たった一日で部品を取り寄せられるわけないだろ。工場からここまで輸送するのに最低でも二日はかかる」
進介「い、インパルスはまだお店にあったから、そこから取ってきたんだよ!」
晶「おもちゃ屋の店員がそんなことしていいと思うのか?いや、だいたいきみのパパっておもちゃ屋で働いていたっけ?どこのお店さ?」
進介「そ、それは……知らないよ。とにかく、パパに頼めば取り寄せてくれるんだよ!」

 

一息置いてアキラくんは続けた。

 

晶「敏彦くんのストライクもたった一日で直ってるんだよね。これってさ……」

 

アキラくんはぼくの目をじっと見つめて言った。

 

晶「ありえないことなんだよ」

 

……

 

こいつ……

 

ぼくのパパがおもちゃ屋さんってこと、うそだとわかってる。
わかっててこんなこと言ってる。
わかったぞ。こいつ、ぼくがユウタとトシから無理やりプラモを奪ったから、その仕返しをしてやろうっていうんだな。
ぼくが何かやましい方法でプラモを直しているんで、それをユウタやトシにバラしてぼくを悪者にしようとしているんだ。
でも無理だね。こいつはあの魔法のつぼのことは知らないし、そもそもぼくは何も悪いことはしていない。
ユウタはプラモを直したお礼でフリーダムをくれたんだし、トシとは普通に「取り引き」っていうのをしてジャスティスをもらっただけさ。
そう、ぼくは何も悪いことはしていないんだ。

 

晶「今からきみの家に行くよ」
進介「な……」

 

な、何言い出すんだよこいつは!

 

晶「きみがどうやってプラモを直したのか知りたいんだよ。いいだろ?」
進介「だ、だめだよ!」
晶「なんでだめなのさ?何かやましいことでもあるのかい?」
進介「べ、別にやましいことなんかないよ!」
晶「じゃあ……いいだろ?」
進介「あ、ああ。いい……よ」
晶「それじゃ、さっそく行こうか」
進介「あ、ああ……」

 

ぼくはアキラくんのカラミティを持って、自分の家に向かった。
アキラくんといっしょに。
もし……アキラくんにつぼのことがばれたとしても、何か困るわけじゃないよ……な。
このつぼの不思議な力で直した。胸を張ってそういえばいいだけだ。
ぼくは何も悪くない。悪くないさ!

 

家に帰る途中、例のゴミ捨て場を通る。

 

晶「そういえばさ……」
進介「何?」

 

アキラくんはゴミ捨て場を指差して言った。

 

晶「ぼくのおじいちゃんが『認知症』っていう病気にかかっちゃって、たまに捨ててはいけないものをここに捨てたりするんだよね」
進介「ふうん」

 

それがどうしたっていうんだよ。

 

晶「2,3日前だったかな?おじいちゃんが間違ってここに『つぼ』を置いてきちゃったんだよね」
進介「……」

 

……え?

 

晶「おじいちゃんは『壊れたものが元に戻る魔法のつぼ』だなんて言っていたけどね」

 

魔法のつぼ?
壊れたものが直る?
おいおい、何を言い出すんだ、こいつは?

 

晶「まさかきみがそれを『盗んで』プラモを直してたりしてね」

 

アキラくんは「盗んで」という言葉を強調して言った。

 

晶「まあありえないと思うけど、もしそうだとしたら、きみ……」

 

アキラくんはぼくをじっと見つめてこう言った。

 

 

泥  棒  だ  よ  ?

 

 

進介「……」

 

泥棒?

 

晶「泥棒はお巡りさんに捕まえてもらわないとね。れっきとした『犯罪』なんだから」

 

ぼくが……泥棒?

 

進介「どろぼう……?」

 

晶「そうだよ。ど・ろ・ぼ・う」

 

泥棒……

 

泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!泥棒!

 

晶「進介くん?」
進介「うわああぁっ!」
晶「どうしたの、そんなに大きな声を出して?」
進介「な……なんでもないよ!ちょっと……おなかの調子が悪いだけ……」

 

晶「進介くん……ずいぶん息が荒いね?ひょっとして動揺しているのかな?」

 

 

な ん で 動 揺 し て い る の か な ?

 

 

進介「ひ、ひ……ひぃぃっ!」

 

アキラくんはまた何事もなかったかのように歩き出した。

 

晶「まぁ、魔法なんてこの世にあるわけないけどね」

 

はぁァ……はぁぁ……っ!
こいつ、絶対ぼくのこと疑ってるぞ……
ぼくが魔法のつぼを使ってプラモを直したに違いないって思ってる!

 

晶「……」

 

アキラくんはぼくがつぼを盗んだことをお巡りさんに言う気だ!
そしてぼくは逮捕されて……それがこいつの目的だったんだ。
ユウタとトシの仕返しをするために!

 

ちくしょう!元はといえばぼくが3強を集めようとしたからだ!
プラモなんて集めなきゃよかった……

 

とうとう家に着いてしまった。
今日に限ってママもパパもいない。

 

晶「おじゃまします。部屋に上がらせてもらうよ」
進介「ちょ、ちょっと待って!部屋を片付けるから!」
晶「いいよ、気にしないから」
進介「ああっ!」

 

アキラくんがぼくの部屋に入ってしまった。
部屋の真ん中に魔法のつぼが置いてある。
ママ、パパ、ごめんなさい……

 

晶「なんだいこのつぼ?」
進介「それは……」
晶「おじいちゃんのつぼに似てるけど、色がぜんぜん違う。これ、きみのものなの?まさかね」
進介「……え?」

 

違う?
だって、さっきの話から考えるとどう見たってアキラくんのおじいちゃんのつぼだろ?

 

晶「さて、部品を取り寄せてもらうんだろう?でもきみのお父さんはいないみたいだね。じゃあ来るだけ無駄だったのか……」
進介「え?……あ、ああ……そうだよ」
晶「じゃあいいや。帰るよ。バイバイ」

 

そういうとアキラくんは家に帰ってしまった。

 

進介「……」

 

部屋には呆然として気が抜けたぼくが残された。
……なんだったんだろう?
ぼくの手にはアキラくんのカラミティ・ガンダムが残っていた。

 

進介「とりあえず、これを直しちゃおうかな?」

 

そしてカラミティをつぼに入れようとしてつぼに手をかけた瞬間、つぼは割れてしまった。

 

進介「え……ええぇっ!?」

 

つぼはばらばらに壊れてしまった。

 

進介「どうしよう……これじゃ直せないよね、きっと。……ん?」

 

見ると、つぼの内側の底に何か文字が彫られている。

 

「つぼが割れるといままでなおしたものがもとにもどってしまいます」

 

っていうことは……
まもなくして、ばたばたと足音がした。
見ると、玄関にユウタとトシがいた。

 

裕太「しんちゃん、ぼくのインパルス直ってないよ!翼が折れちゃったよ!」
敏彦「進介くん、ぼくのストライクも」

 

そして二人は声をそろえて言った。

 

「きみにあげたぼくのプラモ、返しておくれよ!」

 

進介「わ、わ、わかったよ。すぐ返すからさ」

 

ぼくは慌てて二人からもらったフリーダムとジャスティスを返した。
二人が帰って、ぼくは一人部屋に残された。
棚の上には、またいつもどおりのプラモが飾ってある。
3強ガンダムはいないけれど、もうこりごりだ。

 

進介「パパに頼んで、3強ガンダムをお店に予約してもらおう。2ヶ月かかるけど、それまで我慢して待とう」

 

 

次の日、学校でいつもどおりの授業が始まった。
休み時間にぼくはアキラくんに話しかけた。
昨日預かったカラミティが直せなくて謝るために。

 

進介「アキラくん、昨日のことなんだけど……プラモ、直せなかったんだ。ごめん」

 

するとアキラくんは不思議そうに答えた。

 

晶「……何のこと?」
進介「何って、昨日貸してもらったカラミティだよ。直せなかったんだ」
晶「カラミティって、カラミティ・ガンダムのプラモかい?きみに貸した覚えなんてないけどなぁ……」
進介「何言って……いや、なんでもないよ」
晶「??」

 

アキラくんはなぜか貸した覚えはないという。
昨日のことはなかったことにしたいのかな?
そのほうがいいや。
ぼくもこれ以上関わりたくなかったので、切り上げて自分の席に戻った。

 

そして学校が終わった。
家に帰り部屋に戻ると、ぼくの部屋にはアキラくんから貸してもらったカラミティはどこにもなかった。
今朝、アキラくんに返そうと思っていたのでカラミティを机の上においておいたのに、どこにもない。

 

進介「ママ、ぼくの部屋片付けた?」
進介の母「今日はしんちゃんの部屋には一度も入っていないわよ」

 

カラミティはどこを探しても見つからなかった。