半導体技術者

主人公の名前:小西 健一(デフォルト名)

 

背景_ブラック
飯森山:…そういうわけだ木村君。よろしく頼むよ。
木村:お任せください部長。しかし小西はどうでしょうか。あいつは頭が硬いし、おまけに馬鹿がつくほど正直者ですよ?
飯森山:まあ彼は頭がいいし仕事もできる。だが臆病者だ。軽く脅せばおとなしくなるよ。いざというときは君も頼む。
効果音_コンコン(ドアをたたく音)
飯森山:来たか…どうぞ!
イベントCG_会社の一部屋、机に飯盛山、横に木村、昼ごろ(明るい日が窓から差している)
健一:失礼します。小西ですが…あれ、木村も?
木村:ふん…
飯森山:二人とも呼んだんだよ。まあ座りなさい。
健一:はぁ…あの部長、私何か至らぬことでもしましたでしょうか?
飯森山:違う違う、今日はいい話を持ってきたんだよ。小西君、木村君、私は君たちを技術課長に推薦しようと思う。
健一:えっ、ほ、本当ですか?
飯森山:うん。君たちの働きは今まですばらしかったよ。特に半導体の開発でね。よくがんばった。
健一:あ、ありがとうございます!これからもがんばります!
木村:光栄です部長。今後ますます精進していきたいと思います。

飯森山:ただね、ひとつ条件があるんだよ。
健一:はい、なんなりとお申し付けください!
木村:……
飯森山:明日、役員選挙があることは知っているね?それで、君たち二人は私に投票してほしい。
健一:え?
木村:仰せのとおりに致します、部長。
健一:ちょっと待って…いえ、失礼しました、部長…おっしゃることの意味がよくわからないのですが…
飯森山:だからだね、君が明日の役員選挙で私に投票してくれれば、君を技術課長にするといっているんだ。
健一:そんな…そんなことはできません、部長。
飯森山:うん、君の気持ちはわかるよ。でもこういうことは君にしか頼めないんだ。君を信頼しているから言うんだよ?
健一:いえ、しかし…
木村:お前な…こんなこと、どこの会社でもやってることだぜ?
健一:な…何いってるんだ!そんなわけないだろ!
木村:ふん、この世間知らずが!
飯森山:まあまあ。ところで小西くん、君にはかわいい奥さんがいたね?子供さんは?
健一:いえ、まだですが…それが何か?

飯森山:そうか。まあほら…これからは子育てとか大変になるよ。お金が入らなくなったらこの先どうなるんだね?
健一:な…わ、私を脅迫するんですか、部長?
飯森山:そうじゃない、そうじゃないよ…私はただ君のことを心配しているんだよ。
木村:ぶっちゃけクビになるか部長に投票するか、どっちがいいのかって聞いてんだよ!
飯森山:……
健一:バカな!こんなことが!…失礼します、部長。私はもう二度とこの会社には来ません…
飯森山:待ちなさい小西くん。もう一度話し合って…おい、待ちなさい!
効果_フェードアウト_フェードイン
背景_夜、健一の自宅の台所
美代子:そうなんだ…会社辞めちゃったんだ?
健一:うん…ごめんね美代子さん。僕のこと、嫌いになった?
美代子:え…?ぷっ…あははっ、そんなこと心配してるの?
健一:だ、だってさ…
美代子:いじらしい健一さん、かわいいっ!
健一:ああ、いいよもう…
美代子:あはは、ごめんね。じゃあ、健一さんは今から就職活動なのね?

健一:うん、それなんだけど…あの、今考えてるのは再就職じゃないんだ。
美代子:あ、そっか…つらいことがあったんだよね?しばらく休んだほうがいいよね。
健一:いや、そうじゃなくてさ…僕、会社を立ち上げたいなー、なんて思ったりして。…ダメだよね?ごめん…
美代子:会社?じゃあ健一さん社長になるんだ。よかったねー、主任からいきなり社長へ昇進なんて。
健一:ああ、美代子さん…それ違うよ…だいたい会社立ち上げるのって難しいんだよ。わかってる?
美代子:だいじょうぶっ!健一さんは天才だから、何やってもうまくいくわ。
健一:天才なんかじゃないよ…ただ、僕は僕の信じるやり方で、僕の技術を世に広めたいんだ。おこがましいと思われそうだけどさ…
美代子:そんなことないわ。とても素敵!私どこまでも健一さんについていくわ。
健一:そういってくれるのはすごくうれしいけど…もしかしたら失敗するかもしれないよ?それでもついてきてくれる?
美代子:大丈夫っ!健一さんが死んだら、私もいっしょに死んであげるから。
健一:おいおい、そこまでついてこなくていいよ。でもありがとう。
美代子:うん!とにかく、明日からがんばろうねっ!
FO,FI,背景_朝、自宅の一室を改造
美代子:はい、椅子。
健一:ああ。重たいよこれ…
美代子:パソコンは?

健一:机の上に置いといて。右端ね。
美代子:うんっ。会社っ、会社っ♪
健一:ああ、ほんとに立ち上げちゃったよ…どうしよう?
美代子:健一さんなら絶対だいじょうぶっ!すぐに日本一の社長になれるわ。
健一:なれるわけないでしょ。ずっと零細でやって、運がよかったらどこかの大企業と共同開発くらいはさせてもらえるかなぁ…
美代子:じゃあそのうちマクロソフトのお得意様ってとこかな?
健一:ま、マクロソフトって…アメリカの超大手じゃないか!そんなの絶対無理。
美代子:わが社の目標は、とりあえずマクロソフトとの共同開発ですっ。はい、決定。
健一:あー…ま、いっか。あははは。
美代子:ふふふっ、やっと笑ってくれた。昨日からずっとだんまりなんだもん。
健一:そうだね、もっと前向きに考えないとね。ありがと、美代子さん。
美代子:うんうん。ところで、健一さんってどんなお仕事してたんだっけ?ソフト開発?
健一:ああ、やっぱりダメかもしんない…
美代子:あ、たしか半導体…だっけ?んー、私、開発は無理かなぁ…何しようか?
健一:…とりあえず、朝ごはんが食べたい。
美代子:うん!じゃ、今すぐ作ってくるねっ。何がいい?

健一:栄養のつくものならなんでもいいよ。
美代子:うん、わかった。でも健一さんって本当に頭いいよね。家を会社にすれば、ご飯だってすぐ持ってこれるわ。
健一:いや、部屋を借りるお金がないだけなんだけど…
FO、FI、背景_会社
健一:ええ、ですからその…当社の半導体は…あ、切れちゃった。
美代子:今度はうまくいくわよ。
健一:ああ、僕って営業下手だなぁ…
美代子:やったことないんだから、しかたないじゃない。そのうちできるようになるわ。
健一:そうだね。じゃ、もう一回…と、その前にトイレいってくる。
健一消える
ジリリリ…(電話の音)
美代子:はい、小西半導体です。…はい、竹内様ですね…はい、はい、わかりました。おまかせください。
健一:あれ?電話鳴ってた?
美代子:健一さん、お仕事取れたわ!田山電気の竹内さんが、半導体の開発をしてほしいって。
健一:ええっ、ほんと?それでどんなものを作ればいいの?
美代子:あ…ごめん、聞き忘れた。

健一:な、何やってるんだよ!それじゃ意味ないじゃないか!
美代子:ご、ごめんなさい…
健一:あ、いや…とにかく折り返し電話するよ。竹内さんの電話番号は?
美代子:あ、それも聞き忘れちゃった。てへっ。
健一:てへっ、じゃないよぉ…田山電気だね?とりあえず電話帳で調べてみるよ。
美代子:ごめんね、ヘマばっかりして…
健一:ああ、まあしかたないさ。とりあえず仕事取れたし、これからが本番だよ。
美代子:うん。ファイト、社長っ!
FOFI,夜1時、会社
健一:……
健一:もう1時なのか…
ガチャン(ドアの開く音)
健一:あれ、美代子さん?どうしたの、もう1時だよ?
美代子:お夜食持ってきたの…差し入れ。ふぁ…
健一:そんな眠そうな顔して…無理しなくていいよ。
美代子:それはこっちのセリフ。健一さん、無理しないで。死んじゃだめ…

健一:大げさだなぁ…僕は大丈夫だから、もうお休み。
美代子:だめ、いっしょに死んであげるっていったもん。いっしょにいる。
健一:……
美代子:口だけじゃないもん。
健一:ああ、わかったよ…あのさ、今朝は怒鳴ったりしてごめんね。
美代子:ん?まだ気にしてるの?
健一:なんだよぉ、その言い方…
美代子:あはは。そうねぇ…あんなに怒鳴られて私、とても深〜く傷ついちゃったなぁ?
健一:傷ついてるようには見えないぞ。
美代子:じゃあ今から私の言うこと聞いてくれたら許してあげる。
健一:ん〜、なにさ?
美代子:今日はもう仕事をやめてゆっくり休んで…そしたら許してあげる。
健一:…わかった。美代子さん、取引うまいね。
美代子:こうでも言わないとやめないんだから…
健一:でもかなりきついんだ、この仕事。時間が足りるかどうか…ぎりぎりだよ。
美代子:うん…とにかく今はゆっくり休んで。おやすみなさい。

健一:ああ、お休み…
FOFI,夕方5時、会社
健一:ら、来週までですか?…はい…承知致しました。
美代子:どうしたの?
健一:竹内様から電話が入って…納期を一週間早めてほしいって。
美代子:ええっ!?そんな…無理よ。今でさえぎりぎりなのに。
健一:ああ、どうしよう…やらなきゃ…でも間に合わない。
美代子:健一さん、もうこの仕事断ろうよ。また新しく仕事を探せばいいわ。ね?
健一:無理だよ、無理。本当にどうすればいいんだよ…もう逃げ出したい…
美代子:……逃げ出しちゃえば?
健一:は?冗談言ってる場合じゃ…
美代子:真面目に言ってるの。ねえ、今晩はおいしいものでも食べにいきましょう?
健一:仕事を全部終わらせてから行く。
美代子:またむちゃくちゃいう。だったら無理やり連れていきます。
健一:え?おい…ちょっと…
FOFI,午後6時、背景_レストラン

美代子:健一さん、おいしかった?
健一:ああ…
美代子:デザートも頼む?健一さん、甘いもの好きだっけ?
健一:ああ…
美代子:健一さん、今は仕事のことは考えちゃダメ。
健一:ああ…
美代子:……
??:あームカつく!部長のバカヤロー!
健一:なんだ…酔っ払いか?うるさいな。
??:課長のバカヤロー!
美代子:ね、ねぇ…そろそろ出ようか?
健一:ああ…さっさと仕事しないと。
美代子:また仕事っていう…
??:ん?…おーい、名刺落としましたよー?名刺ー。
??:おいおい無視かよ…なになに…「小西半導体…代表取締役、小西健一」だって?
??:ええっ!?マジかよおい?ちょっと待ってくれよ!

FOFI,夜7時、会社
健一:美代子さん、この仕事は断るよ。
美代子:あ、そう…そうよね。このままじゃ体壊しそうだし。
健一:うん、それ以前にどうやっても間に合わないよ。新しい仕事を取る。
美代子:なんなら私も営業やろうか?
健一:気持ちはうれしいけどさ…
コンコン(ドアをたたく音)
健一:ん?こんな遅くに誰だろう?…はーい、今開けますんで!
??:先輩っ!会社建てたんスか?すごいっす。オレにもなんかやらせてくださいよ!
健一:はぁ?あの、失礼ですがどちらさまで…
??:やだなぁもう…オレですよオレ。
健一:オレオレじゃわかりませんって…
ガチャ(ドアを開ける音)、関登場
??:じゃーん。頭は悪いけどやる気だけは人一倍、技術でも営業でもなんでもあり、ついでに数学者の関孝和と苗字が同じの関高志ですっ!
ガチャ(ドアを閉める音)
健一:なんだ今のは。見なかったことにしよう。

関:先輩っ、今のは冗談っす!開けてくださいよぉー!
ガチャ(ドアを空ける音)
健一:関くん、どうしたのさ?いや、なんでここがわかったの?
関:名刺落としましたよー?届けに来ました。
健一:ほかに理由があるでしょ。さっき仕事手伝いたいっていってたけど、やめたほうがいいよ。
関:会社、潰れそうなんすか?
健一:ぐわっ!いきなり痛いこというなぁ…
関:かまわないですよ!いっしょに会社大きくして、タカダを見返してやりましょう!
健一:ん?そういえばタカダはどうしたの?まさかやめさせられたんじゃ…
関:いや、逆です。やめてきました。選挙で不正投票やらされるくらいなら死んだほうがマシですよ!
健一:なんだ!僕と同じか…
関:先輩もですか!いやー、オレと先輩は運命の糸で結ばれているんでしょうねー、えへへ…
健一:気持ち悪いこというなよ…運命の糸なら先客がいるんだけどな?
関:ああ、奥様ですね?関です、よろしくお願いします。
美代子:ええ、こちらこそ。楽しい人ねー、営業の方?
関:そう見られますけどねー、基本は技術系なんですよ。

健一:たしか理系の大学にぎりぎり入学して、ビリの成績で卒業してからまだ2年だよね?
関:なんでそんなこと覚えてるんですか?痛いっす…
健一:まあいいや。ありがとう、これからよろしく。
関:あ、こちらこそよろしくお願いします!で、さっそく何しましょうか?
健一:そうだね、申し訳ないんだけど、締め切りに間に合いそうにない仕事が一つ入ってるんだ。でも関くんが手伝ってくれたら間に合うかもしれない。
関:わっかりましたっ!まかせてください!
朝10時、会社、竹内と健一と関と美代子
竹内:確かに受け取りました。ありがとうございました。
バタン(ドアの閉まる音)
健一:ま、間に合った…もう動けん。
関:お、オレはまだまだいけますよ!まだまだ…
健一:死にそうな顔でいうなよ…今はゆっくり休んでくれ。
美代子:本当にお疲れ様でした。はい、お茶。
関:あ、どうも。ふー、でもやっぱこの会社って…いや、なんでもないっす。
健一:潰れそうっていいかけただろ?
関:ち、ち、違いますよぉ?

健一:すぐに顔に出るよね、君…
美代子:関さんってとっても素直なのねー。いいことよ?
関:え?そ、そうですか?あはは。
健一:はいはい…でも今回の仕事で全体の流れというか、仕事の要領はつかめてきたよ。今度は大丈夫。たぶん。
関:たぶん…ですか。うーん…
美代子:絶対、大丈夫よ。ね、健一さん?
健一:え?…ああ…うん、そうだな。大丈夫だな。
関:ぶっちゃけ根拠はないけど、先輩ならやっていけると思います!
美代子:健一さんは天才だから大丈夫っ!
健一:二人とも根拠なさすぎ…でもありがとう。よし、明日からもがんばろう!
関:ええっ!?明日からもう?
健一:あ、君は休んでてもいいぞ。
関:え?いや、まさかぁ…先輩より若いんだから、先輩こそ休んでてもいいですよ?
健一:まるで僕が若くないみたいだ…ま、明日からもよろしくっ!
FOFI,夕方5時、会社、健一と関
関:先輩っ、仕事取れました!

健一:えっ、ほんと?
関:ええ、ラッキーでしたよ。前の竹内さんからのツテで、新城電気の森下様からの依頼です!
健一:し、新城電気?大手じゃないか…すごいよ!
関:でしょ、でしょ?えっへん。
健一:(新城電気といえば関西では1,2を争う大手電気会社だ。これはレベルの高い注文かもしれないぞ)
健一:で、どんなものを作ればいいの?受注書は?
関:これです、どうぞっ!
・・・・・・
健一:これ…納期いつ?
関:1ヶ月ですけど?
健一:い、1ヶ月!?
関:え?もしかして…足りなかったですか?
健一:いや、これは…作業量は大したことないんだけど…
健一:(難易度がかなり高い…勉強する時間がいるな。関くんがついてこれるかどうか…)
健一:関くん、記憶力に自信はあるか?
関:え?記憶力ですか…いやー、なにしろビリで卒業したくらいですから…たはは…

健一:そうか…わかった。じゃあ君はここまで一人でやってみてくれ。後は僕がする。
関:ええ!?一人ですか!?いや、それはちょっと…
健一:頼む、なんとかしてくれ。僕はそれまで後半の作業の準備をする。そうするしかない。
関:わ、わかりました…やってみます。
健一:どちらかがミスったらもう間に合わない。頼んだよ、気合入れてくれ!
関:は、はいぃ…プレッシャーきつぅ…
FOFI、昼2時時、会社、健一と関
健一:……
関:……
健一:よし、なんとか…設計図はできた…関くん、どう?
関:オレもなんとか…できたようです。
健一:納期まであと1週間…ぎりぎりだ。よし、仕上げに入ろう。ん…?
関:??どうかしましたか、先輩?
健一:(まずい…)
関:先輩?
健一:技術に著作権がかかっている。

関:へ?…著作権…っていうと…
健一:(著作権…技術そのものに対する特許みたいなものだ。この技術を使用するには技術の発明者にかなりの金額を支払わなくてはならない)
関:いくら払わないといけないんですか?
健一:一千万は…
関:い、一千万!?それ、オレたちが出さなくちゃいけないんですか?
健一:新城電気に支払ってもらうことができるはず…いや、でも手続きに時間がかかるか?
関:とりあえず作っちゃって、後から請求すればいいじゃないですか。
健一:無理だ…インターネットからアクセスして技術を借りれるようにできている。今すぐ1000万いる!
関:…ええ!?まさかここまできて、全部台無しとかないですよね?
健一:……
関:先輩!
健一:どうすればいい?新城電気に頼むか、銀行に融資を頼むか、弁護士に相談するか…
関:法律の専門家が…いない。
健一:そうだ。どうする…さあ、どうする?
関:こ、こんなところであきらめるなんていやですよオレ!今すぐ銀行行ってきます!
健一:頼む!僕は新城電気に頼んでみる。

関、退出、電話の音
健一:もしもし小西半導体ですが…森下様をお願いします。先日承りました製品の件ですが…
FOFI,夕方5時、会社
健一:(ダメだ!新城電気は手続きに1週間以上かかる。弁護士も無理だといっている…)
ガチャン(ドアの開く音)
関:先輩、うまくいきました?
健一:ダメだった…そっちは?
関:すみません、こっちも…業績のない会社に一千万も貸せないと…
健一:そう…か…
関:…ち、ちくしょおーーーっ!!
健一:せ、関くん?
関:こんなところで、こんなところで終わるなんて…悔しいですよ…
健一:関くん、落ち着いて。納期を延ばしてもらえばいい。会社が潰れるわけじゃない。
関:わかってます…でも、こんなにがんばったのに…なんか納得いかないです…
健一:こんな小さい会社じゃ…しかたないさ。
関:そういう考えが嫌なんですよ!会社がでかけりゃいつも勝てるっていうのが…

健一:タカダのことか?
関:あんな…不正をやらかすような会社より…先輩のほうが優れてるってことをいいたかったんです。
健一:…ありがとう。とにかく、これは社長である僕の責任だ。僕が新城電気に電話する。君は悪くない。
関:先輩…すんませんでした。
ガチャ(ドアの音)
美代子:あら…二人ともいたの?電話してもぜんぜんつながらないんだから。
健一:ああ…気づかなかった。すまない。
関:……
美代子:どうしたの、関さん?泣いてるの?
関:いえ、泣いてなんかないです。
美代子:??
健一:美代子さん、実は…
健一:……
美代子:え?著作権?
健一:ああ、だからその、いいにくいんだけど…納期には間に合わないんだ。ごめん。
美代子:なーんだ、そんなことなんだ。大丈夫よ。私が何とかしてあげる。

健一:へ?いや、魔法で解決とか、冗談いってる場合じゃないんだよ?
美代子:大丈夫っ!私そういう仕事してたから、すぐに使えるようにしてあげるっ!
健一:仕事?ん…?そういえば美代子さんの勤めてたところって…どこだったっけ?
美代子:もー、忘れんぼさんね。八井銀行よ。ちなみに法務〜。
関:えーっ!超一流企業じゃないですか!ちょ、ちょっと待って奥さん、失礼ですけど…大学どこ?
健一:お茶の池女子大学…だっけ。なあ?
関:げーっ!偏差値負けた…
美代子:あらあら…お二人は天才だから、私は遠く及ばないわよ?
健一:と、とにかく美代子さん…今すごく急いでるんだ。ほんとになんとかなる?
美代子:まかせといて!今日中にはその技術、使えるようにしておくからっ!
美代子退出
関:……
健一:……
関:一流大学で一流企業…なんか信じられないっす。
健一:おほん…それはちょっと失礼ではないかな?関くん。
関:あわわっ…すんません、すんませんです。

健一:まあ…実は僕も信じられないんだけど…あのボケボケした美代子さんが…
関:あ、やっぱ先輩もそう思ってるんだ?
朝11時、会社、健一、関、美代子、森下
森下:予定通りですね。たいへん感服致しました。今後ともごひいきに…では失礼します。
ガチャン(ドアの閉まる音)
健一:お、終わった…
関:奇跡って…ほんとに起きるもんですね。
健一:そうかな?僕は奇跡とは思わない。これは僕らの実力だよ、確かに。
健一:運がよかったときもある。けど、実力がなかったら間違いなく終わってた。美代子さんも関くんも、本当にがんばってくれたよ。
関:オレみたいな三流でも、先輩の役に立ててるのかな?なんかあんまり実感ないや。
健一:関くんがいなかったらとっくに潰れてたよ…
関:そ、そうですか?いやー、そんなに誉められると照れるなぁ…
健一:まあ、プロジェクトリーダーとかにはまだ遠いかもね。
関:がーん…
美代子登場
美代子:ねえ、今朝の新聞読んだ?半導体技術展覧会だって、これ。

関:なになに…マクロソフト主催、半導体技術展覧会。最優秀企業にマクロソフトとの共同開発を推奨…これって、最優秀企業に選ばれたらマクロソフトのお得意さんになるってことですかね?
健一:マクロソフトとの共同開発…
美代子:健一さん?
関:出ないなんていいませんよね?
健一:ああ…ついにチャンスがやってきたんだな。思ったより早かったけど。
関:こうなったらオレもう、とことん先輩についていきますよー?
健一:関くん、ありがとう。
美代子:健一さんは天才だから、きっと夢をかなえられるわ。
健一:美代子さん、ありがとう。
関:じゃあどうしますか?製品を作って展覧会に出すんですよね?何か作らないと。
健一:そのことなんだけど…あのね、前から考えていたアイデアがあるんだ。いつかこういう機会がきたらやってみようと思ってたんだ。どうだろう?
関:もちろんOKです!
美代子:がんばって、健一さん!
FO
一ヶ月後…展覧会当日
FI、朝9時、会社、健一、関

健一:よし…
健一:(完成した。もうこれ以上できることはない。できる限りのことはやった)
ガチャ(ドアの音)、関登場
関:せ、先輩!大変ですよ、新聞!
健一:タカダも出るんだろ?
関:あ、もう知っておられましたか。さすが先輩。
健一:手ごわいよね…それはタカダにいた僕が一番よく知ってる。僕より優秀な技術者は何人もいたよ。
関:…ぶっちゃけ、勝つ自信あります?
健一:…正直いうと、自信はない。でもね、不安はないよ。やるだけやったんだ。後悔は少しもしていないよ。
関:ええ、オレも同じ気持ちです。負けたっていいじゃないですか。オレたち、よくやりましたよ。
美代子:あら、負けるはずないじゃない。
美代子登場
関:え?奥さん、何か勝算でもあるんですか?
美代子:んー…特にないけど。
関:ずこっ…
美代子:健一さんも関さんも天才だから、負けるはずないわ。

関:まあ先輩は天才かもしれないけど、オレなんて…
健一:でも僕の開発のパートナーができるのは関くんしかいないんだよ。ほかの技術者じゃダメなんだ。
関:え?いや、そういわれると照れますねぇ…
美代子:健一さんも自信もって?絶対大丈夫だから。
健一:うーん、根拠がないけど…でもうれしいよ。ありがとう。
美代子:うん。じゃ、準備もできたみたいだし…
健一:行こうか!
午後1時、展覧会場の自社ブース
健一:よし、準備はできたぞ。
関:うわー…あの会社、あんなでかいディスプレイで宣伝してるよ。あっ、こっちの会社の呼び込みはかなり強引だなぁ…
健一:あのー、関くん?他社の宣伝に感激しているのはいいけどさぁ…こっちも手伝ってくれないかなぁ?
関:あわわ…すんません、すんません!
美代子:大丈夫よ、関さん。宣伝なんかしなくても勝てるから。
健一:いや、それはどうかと…
??:久しぶりだねぇ、小西くん、関くん。
飯盛山、木村登場

関:あっ…い、飯盛山部長?木村主任?
木村:関、おまえ会社辞めてどこに逃げたのかと思ったら、こんなところにいたのか?まあお前にはお似合いだぜ。
関:な…そ、それはどういう意味ですか!?いくら主任でもそんな言い方は…
健一:ご無沙汰しております、部長…
飯盛山:ほぉ…聞いたよ小西くん。ずいぶんがんばっているそうじゃないか?
健一:おかげさまで…これも部長の厳しい指導のおかげだと思っております。
飯盛山:私に感謝しているなら、なぜ会社を辞めたのか説明してもらいたいものだな。
健一:それとこれとは関係ないと思います…
木村:お久しぶりです、奥さん。木村です。覚えてらっしゃいますか?
美代子:ええ、一度お会いしましたわね。夫がいつもお世話になっております。
木村:ふふ…こんな小さい会社の経営者より、私のところへ来ませんか?不安定な生活はもう嫌でしょう。
美代子:あらぁ…夫は天才ですから、誰にも負けませんわよ?
木村:て、天才!?…く、くははは!
関:な、何がおかしいんですか主任!
木村:見てみろ。こちらにはおまえらと同じかそれ以上の技術者が30人もいるんだぞ?トップ営業マンもそろえてきたし、宣伝も豪勢だ。おまえら本気で勝てると思ってたのか?
関:く、くそっ!お、オレたちだって…

美代子:大丈夫。宣伝なんかしなくても勝てますからぁ。
木村:な、なんだとぉ!?
関:そ、そうだ。宣伝なんかしなくても勝てるんだよ!
木村:ふん!ただの強がりだ!すぐにわかるさ。
飯盛山:小西くん…ここへきたのは少し君と話したいことがあってね…少し席を外させてもらっていいかね?
小西:…わかりました。
背景_場所移動、健一、飯盛山
小西:会社を辞めた理由ですか?
飯盛山:それはもういい。おほん…君に、タカダに戻ってもらえないかと思ってね。
小西:戻る?私がですか?会社をみずから辞めたのに?
飯盛山:それほど君は優秀だったということだ。ぜひとも私たちのチームのプロジェクトリーダーをやってもらおうと思ってね。
小西:プロジェクトリーダー…私が…ですか?
飯盛山:それだけじゃない。お偉い方の話では、君を特別役員に推薦しようという話も出ている。
小西:や、役員!?
飯盛山:そうだ。「代表取締役」だ。30でタカダの役員とは異例の若さだが…つまりそれほど君は評価を受けているのだよ。
小西:……

飯盛山:よかったな…最初聞いたとき複雑な気分だったが…今は私もうれしいよ。自分の育てた部下が異例の昇進なのだからね。
小西:ちょ、ちょっと待ってください!関くんは戻してもらえないのですか?
飯盛山:関くん?ああ…彼にはそういう話はない。
小西:え?じゃあ…彼はどうなるんですか?私が会社を閉めたら、彼は職がなくなってしまいます!
飯盛山:再就職先なんかそのへんに転がってるだろう?彼も曲がりなりにも技術系なのだし。
小西:いえ、そういう問題じゃないんです。私のパートナーは彼しかいないんです。
飯盛山:ああ、その心配ならいらない。君のチームには優秀な技術者をつけてあげるよ。彼よりずっと優秀な技術者をね。
小西:優秀とかそういう問題じゃないんです!彼じゃないとだめなんです!
飯盛山:なんだね…それは…まさか「友情」とかいいだすんじゃないだろうね?
小西:私のことを最もよく理解してくれるのが彼なんです。だから仕事も効率よく進むのです。
飯盛山:だから…それは「友情」だろう。君は友情が原因で失敗したプロジェクトがたくさん存在することを知っているはずだ。
健一:……
飯盛山:君は賢い。そんな甘いことをいってプロジェクトを潰すような人間ではないはずだ。あんな無能をパートナーにつけるよりは…
健一:部長!何をいわれようと、私はタカダに戻るつもりはありません!私は関くんや妻と仕事を続けます!
飯盛山:なに!?おまえ…おまえ…あの時と同じだ!この私が…こんなに頭を下げてやってるのに、おまえは!
健一:部長…いえ、飯盛山さま…私は小西半導体の代表取締役社長、小西健一です。どうぞお引き取りください…

飯盛山:くっ…賢くないな…おまえは実に賢くないよ!わしの顔を潰しおって…もう知らん!好きにするがいい!
背景_展覧会場ブース、健一・関・美代子
関:先輩、何の話だったんですか?会社を辞めた理由ですか?
健一:ん?ああ…まあ大したことじゃないよ。
関:しっかしまあ、わざわざあんなことを言いに来たんですかねぇ…ちぇっ!
美代子:まあまあ、気にせずに、呼び込みの続きをしましょう?
関:はい、がんばりましょう!
健一:(やっぱり…僕はここにいたい。ここが僕の居場所なんだ)
FOFI,午後3時、展覧会場中央、健一、関、美代子、木村、飯盛山、その他大勢
マクロソフト代表:皆様お待たせしました。えー、それでは審査の結果発表をいたします…
木村:最初から勝敗が見えてるなんておもしろくないな、なあ小西。
小西:……
飯盛山:…最後のチャンスだ。今なら前言撤回してもいいぞ…
小西:私の意思は変わりません。
飯盛山:ふん…よろしい。その度胸だけは認めてやる。
マクロソフト日本代表:それでは発表します。本日、私たちがもっとも評価し、ぜひ共同開発をお願いしたい企業様は…

マクロソフト日本代表:小西半導体…小西半導体様。代表の方、いらっしゃいますか?
小西:えっ!?…は、はいっ!
木村:なっ…!
飯盛山:…バカな!
小西:失礼いたします…代表の小西健一です。
マクロソフト日本代表:小西様、御社の製品、拝見させていただきました。実に斬新な発想といい、時代の先を行く技術といい、私ども深い感銘をお受けしました。
マクロソフト日本代表:ぜひ私たちの新しいプロジェクトに協力していただきたいのですが、いかがでしょうか?
小西:は、はい!もちろん、喜んで!
木村:し、失礼いたします!私、株式会社タカダ半導体の者ですが…御社が共同開発企業をお選びになった理由を聞かせていただけないでしょうか!いや、なぜ私たちの製品がお気に召さなかったのか、お聞きしたい!
マクロソフト日本代表:タカダ様、私は御社の製品は大変すばらしいものだと感じました。これほどの技術力を持っている会社はほかに存じません。
木村:では…なぜ?
マクロソフト日本代表:確かに御社の製品は日本最高峰とお見受けするのですが、しかし私たちが求めているのは単なる技術力ではなく、斬新な発想であり、時代の先を行くアイデアなのです。
マクロソフト日本代表:私はその点において、彼…小西半導体様がもっとも優れていると判断させていただきました。
木村:時代の先、ですか…
マクロソフト日本代表:はい。まあ気のきいた言い方をすれば…夢がある、とでもいいましょうか。
木村:……

飯盛山:木村くん、もういい。私たちの負けだ。
午後4時、木村:な、納得がいきません。どう見てもわれわれのほうが優れているとしか思えません…
FOFI、展覧会場ブース、健一、関、美代子、木村、飯盛山
関:ふっふっふ…
木村:……
関:どうですか主任っ?われわれの力はっ?
木村:クソが…いちいちむかつくんだよ…
飯盛山:なぜだ?私と君と…どう違うというんだ?君は本当に天才なのか?
健一:いいえ、私は天才ではありません。私はただ、私のやり方でこの技術を世に広めたいと思っていただけです。
飯盛山:私のやり方…だと?なんなんだ、そのやり方というのは?
健一:そうですね…たとえば、どんな苦難に直面しても仲間を最後まで信じることとか…
飯盛山:そんなことが…
健一:あなた方は「そんなこと」とおっしゃるかもしれませんが…私はこの信念を譲れないのです。おわかりいただけないかもしれませんが…
飯盛山:…小西くん。君はこの勝利が、いや、今までなしてきた数々の成功が「まぐれ」だと考えたことはなかったかね?
健一:まぐれ…ええ、そういうこともありました。
飯盛山:この先いくつもの落とし穴があって、今まではたまたま落ちなかった。だが、明日はもうその穴に落ちているかもしれないのだ。

健一:…覚悟の上です。
飯盛山:私にはそういう生き方はできない。だから私はいまこの会社で技術部長をやっている。
飯盛山:だが遠くから君の活躍を見させてもらうとするよ。…ではそろそろ失礼するよ。行こうか、木村くん。
健一:…お心遣い感謝いたします……部長。
FOFI、健一、関、美代子
関:先輩!やっぱ先輩は天才だ!
美代子:だからいったでしょ?負けないって。
健一:でも僕一人じゃ何もできなかったし、3人いたから成功したんだよ。一人でも欠けていたらうまくいかなかった。
美代子:そうね。みんながんばったから。
関:先輩、これからもよろしくお願いします!
健一:ありがとう。もし神様がいるのなら…君たち二人に出会わせてくれたことに、心から感謝している。